黒猫が窓辺でくしゃみをする。
おや、風邪ですか。と声をかければ、猫は振りむきもせず屋根から落ちる雪解けの雫をいっしんに見つめている。
真っ黒な毛並みの日の当たるところはうっすら茶色く光り、どっしり座った下半身とわずかな肩甲骨のデコボコがかわいいゴリラのようなくびれ。
触れてみれば「こんなに炙って大丈夫かしら」と不安になるほどぽかぽかに蓄電して、猫はこれからめいっぱい春の予定を立てている。
今年も猫草植えようね。
ベランダを出たり入ったりまた出たりしよう。
黙っておなじ日差しを見ていると去年と同じ春が一緒に過ごせる予感で胸がいっぱい。
元気でいなさいよ、今年も元気でいなさいよ、もっといっぱい遊ぼうね。
ぽたぽたぽたと軒から落ちる雫の合間に、猫がまた「くしゅん」とひとつくしゃみをする。
おや、風邪ですか。