晴天の霹靂

びっくりしました

猫の穴惑い

冬の入口に、冬眠のための巣穴を見つけられずにウロウロしている蛇のことを「穴惑い」というそうだ。

家猫も、この季節は頻繁に穴惑いする様子が観察できる。

南向きの窓から入ってくる冬の柔らかいひだまりの、あの日向に座ろうか、こちらの日向で眠ろうか。ぬくぬくした布団の上か。はたまた炬燵も捨てがたい。

こたつ布団のまわりをウロウロして、入り口が見つからないときは、もちろん人間を呼ぶ。

「穴がないんだけど?」のニャアを聞いた人間がドレドレと布団の端を猫の額ほどの高さまでまくり上げてやると、猫は機嫌よく中の快適さを測りにいく。

「ここも、悪くないね」

などと言い言い、尻尾を振り立ててまた出てきては、もういっぺん、どのひだまりか、どの毛布の上か、どのこたつ穴か、順ぐりに回って選ぼうかウロウロする。

途中でいったん人間の足元にすり寄って、愛嬌を振りまくようなサービスさえ入れてくれるのを、私は「ピットストップ」と呼ぶが、とにかく暖かな場所が潤沢な日の猫はごきげんがいい。

 

家の中にどこにどれくらい快適な場所があるかを把握しておくのは猫にとって重要な仕事だ。

そして「どれを選んでも全部楽しそうだけど、一個しか選ばないからどれにしようかな」と決めきれずにいる猫を見ているのは、この世で5本の指に入るくらいの幸せのうちのひとつでもある。

結局、「今日はやっぱりこたつを攻めよう」と思った猫が、肩甲骨のあたりをぺったり低くしお尻を高く振りながらこたつ布団を押して中へ収容される。

「一人で入れるじゃん」

という、飼い主のツッコミは猫が消えたあとの空間にぷわぷわと漂って暖かな冬の眠気に変わった。