晴天の霹靂

上品な歩き方とかを習得できないまま人生を折り返すとは

『第七官界彷徨』~いつの間にかコミック版が出ていた

「ここのところ急に寒いから急いで形にしてしまおう」

などと思いながらせっせと毛糸を編んでいると、なんとなく尾崎翠の『第七官界彷徨』が読みたくなる。

好きな色や感触の素材を選んで「ありうべき形」を思い浮かべながら一人でちょっとずつ積み重ねていればいつかは何かしらのものが完成する、その感覚が非常に『第七官界彷徨』っぽいような気がするのだ。

チマチマ。チマチマ。

家がひとつの生命体であって、自分はその中の細胞であるようだ。

だから自分の喜怒哀楽は、全体の生命活動の一部であることによってちょっとばかり免責されている。

 

「たしかKindleでも買ってあったと思うけど」と思って検索したら、知らない間にコミック版が発売されていたのでちょっと驚いた。

たしかに小説でありながら少女漫画的にかわいらしく絵画的な作品ではあるのだが、どうやっても絵にはならないだろうと思う文章特有のユーモアにあふれてもいる。

あんまり気になったので買ってしまった。

 

「誰かの頭の中に完成した第七官界」を覗き見るという経験が、とっても面白かった。

「あー、その口笛の素っ頓狂さはやっぱり絵になりきらなかったかあ」とか、

「その机の足元に潜り込むところはもうちょっと猫っぽい仕草なんじゃないのかなあ」とか、

「そのぶん思い切った素っ頓狂さは着物の柄で表現されたのですねっ!」とか。

人様の第七官界を見せてもらえる機会があろうとは思っていなかったので、非常に愉快。

絵画で見ると、文章でまっすぐ上下上下と読んでいるときよりも、空間に関するお話であることがより明確になっており、またちょっと違った角度の面白さが見える気がする。

 

「しかし試験管で育てたかいわれ大根から四人分のおひたしは作れないだろうよ」

などと思って、時々にやりと笑いながら、私は私でいつかは仕上がるくびまきをせっせと編み続ける。

自分の好きなものをできるだけ大事にし続けようと頑張った人の内なる世界。