晴天の霹靂

上品な歩き方とかを習得できないまま人生を折り返すとは

まずそうな餌をうまそうに食って幸せな猫になれ

うちの猫はいつの頃からちょっと吐き戻しが増えた。

食べた直後に、ほとんど未消化、なんならほぼ原型の餌をケロっと吐いて

「今の吐いたんでもう一回ください」

くらいのことを言いに来るぐらいのガッツである。

それらを考えるに内蔵の病気などではなくて、おそらく餌の形状が本人に合っていない可能性が高い。

 

しかし我が家では初めてのちっちゃな猫をもらってきて連れていった獣医師から

「まずそうな餌をうまそうに食う猫が幸せなんです。サイエンスダイエットをやってる子が最も長生きします」

という金言をもらって以来、呪いのごとくサイエンス・ダイエットだけを食べさせ続けており、いまさら他に変える勇気も、選択の知識もないのでグズグズ迷っていた。

 

 

そんなか、近所のドラッグストアで「吐き戻し軽減」と書かれた餌を見つけた。

新発売なのかどうかは知らないが、少なくてもこの店には今まで置いていなかったラインナップのはずだ。

粒が小さい上に、胃の中で水分を含んで崩れやすいと書いてある。

「もしや、うちの子に必要なのはこの機能なのではあるまいか」

と、思った私は「お試し用」と書いてある200グラムのパックを買ってみた。

神とも崇めていた獣医の金言にはじめて背いた瞬間である。

 

 

帰宅すると猫は珍しくこたつから出て出迎えてくれたうえで、かわいいめの声を出していつものように餌をねだる。

「どれどれ、これを食べてみてごらん」

と買ってきたばかりの新しい餌を皿に入れた。

心配になるくらい食べる。

まあ、今まで同じ味のものしかやってこなかったので餌が変わると目新しいのかもしれない。

これで吐く回数が減るようであれば本猫の負担も減るだろうし、ちょっと様子を見てみよう。

と、思ったのだ。

 

それにしても、どうにも心配になるくらい真面目に食べる。

今までの餌だと、「もういいや」という感じで途中でやめてどこかへ行ってしまっていたし、猫ってそういうものだと思っていたのだが、新しい餌だとすぐ完食する。

それが毎日続くと、それはそれで心配になるのだ。

何か猫の体に悪い「美味しすぎる味付け」などがなされているのではあるまいか。

うちの子をラーメン二郎にハマり過ぎた人みたいな目に合わせているのではあるまいかっ?

何しろこちらは獣医師の戒律を破っている後ろ暗さを抱えているので、どっちにしろ心配で仕方ないのだ。

 

「今日は、サイエンスダイエットとハーフ&ハーフなっ」

などと、罪悪感を足して2で割る作戦など繰り出してみると、びっくりしたことに、我が猫は器用に好きな方の餌の粒だけをより分けて食べ、サイエンスダイエットをほぼまるごと残す。

「お前さん、そんなに器用だったのかあ。えらいなあ」

などと、そばにしゃがんで猫が餌を食べる様子を感心してじっと見る。

たしかに、サイエンスダイエットを食べるときはカリカリと音がするが、オールウエルを食べるときは音がしていない。

消化器への負担を考えれば柔らかいのがぐっと食べやすいんだろうが、硬い方が歯にはいいんだろうなあ。

 

確かに新しい餌を買って以来、我が猫は吐いていない。

餌を美味しそうに食べ過ぎるので不安、というのも妙な心配の仕方だ。

「しかし、あの獣医にたまに会いにいきたいねえ」

引っ越してしまったので今さらもう行けない、子猫と私を色々と諭してくれた厳しい指導者のことを懐かしく思い出す、黒猫5歳の秋である。