晴天の霹靂

びっくりしました

『福田村事件』~芋畑で豆腐持ってる井浦新

『福田村事件』観てきました。


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久しぶりに行くミニシアターでの上映だったのですが、ロビーがごった返すくらい人が来ていた上にパンフレットが現在「三度目の品切れ中で入荷待ち」の状態だそうで、公開時の予測をだいぶ上回る数の人に観られている様子が劇場全体から伝わっておりました。

 

最初、非常にゆっくり始まるんです。わりと大人が突っ立って長台詞を喋っていたりもするので「あれ、これ私苦手なタイプのやつかな?」とちょっと警戒したりもしたんですが、その分震災が起こってしまってからの、どうやっても誰によっても止められない怒涛の展開がすごくて、座席に張り付くようにして観終わりました。

 

こちらは観客という、言ってみれば神の目に近いところから観てるので事態が完全な集団ヒステリーであることは見えており、「えー、ちょっと待て待て。これどうやったら止められるんだ。おいおい」と思って手を握りしめるわけですが、起こってることが元々理にかなってない以上、正論では止められないところが、神の目を持ってしても本当に頭を抱える点です。

 

讃岐から関東まで来た行商団が地元の人と言葉が違うことをもってして「お前ら朝鮮人か」ともみ合いになったとき「朝鮮人だ」「いや日本人かもしれないから」という論点で村人とどんどんエスカレートしていく小競り合いのシーン。

「いやいやいや、論点ズレてるズレてる。そこじゃないだろ、おーい」ってこっちは肘掛け掴みながら胃のねじれるような思いで見てるところで、その行商団の親方である永山瑛太が「朝鮮人なら殺してもええんか」と言い放ちます。

そこでこちらはすくっと立ち上がってスクリーン指さしながら「そう、それっ!」って言いたい気持ちになるんですが、集団ヒステリーの中でひとり正気を保ってる人って、無事じゃ済まないのですよね。

最も残虐な行動の口火を切ってしまうのが、集団の中でもっとも非力でもっとも強いストレス状況下に置かれている存在であったのもまたつらいシーンでした。

 

劇映画として撮られてあることの良さについて言えば、東出昌大が、目を見張るほど、というよりは目を剥くほど、ちょっと気が散るレベルで素晴らしい。

あと水道橋博士が、最初から最後まで、余すところなく、遺憾なく、骨の髄まで、感じ悪かったです。近年、あそこまで感じ悪い人って久しぶりに観た。

最初、雰囲気に慣れなくて「この人たちなんか不自然じゃない?」と思いながらゆるゆる見始まった映画だったんですが、最終的にはどの配役も非常にいいなあ、と思っていたのは驚きました。

 

今どき珍しい隣と肘掛けを争い合うタイプのシアターだったので、隣の席のマダムが私とときどきちょっと肘がぶつかったりしながら後半ずっとスンスン泣いてらっしゃるのがなんとなく心触れ合う気もする映画体験なのでした。

SNSで慢性的に集団ヒステリーが起こっていたり、ヘイト言説で商売をしている人がいたり、明らかにあったことを無いと言い出す権力者が居たり。かく状況が現在まで100年間変わってない以上、いつでも同じことが起こりうるわけですが、とりあえずは、あまりにも非力ではあるが、まずは知ること。なんだよな。

 

 

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