『TAR/ター』観てきました。
なんでもケイト・ブランシェットが怪演だって聞いたので、ケイト・ブランシェットの怪演ならそりゃ観るでしょ、と思ってでかけたのでした。
観る前にほとんどどういう映画かわからないまま観に行ったのでありますが、観終わったあともどういう映画かわからなかったには感動したもんです。
大変おもしろかった。
二時間半くらいあるんですが、だんだん何の話だかわからなくなってきて、本当にいよいよ最高潮になんのことだかわからなくなったところで何事もなかったかのようにすーっと映画が終わるんですよね。
「えーっと?」
とか戸惑ってたら前の席の高齢男性が振り向いて
「わかんないなあ。なんでフィリピンなのに大阪なんだろうね?」
と声をかけてきました。
映画館であんまりそういうふうに声をかけられた経験がないのでちょっとびっくりしちゃって、つい愛想笑いで返してしまったんですが、もったいないことをした。
あそこでもう少し話し込んでいれば愉快だったに違いない。
ケイト・ブランシェットの中身が権力おじさんなんです。
大学で教鞭を取れば学生を全力でいびるし、
学校自分の子どもがいじめられてるとなれば小学生をガチ脅迫するし、
自分の率いるオーケストラに気に入った新人がいればグルーミングしにいくし、
自分は一人で仕事部屋に住んで配偶者にワンオペ育児させるし、
まったくどうしようもないんだけど、ケイト・ブランシェットが魅力的すぎてちょっと困る。
かっこいいねえ。なんてうっかり見とれていたら、そのイケメン、ケイト・ブランシェットが見事に2度すっころびますね。顔面から。
本当に見事な転びっぷりで、劇場でしたが、
「今の所巻き戻して、もう一回見せて!」
と思ったもんです。
特に二度目のすっころびシーンは、あまりにも急速に物事が起こったので一瞬妄想のシーンのようにも感じられたくらいでした。
それが、見ようによっては、彼女自身の中から”おじさん”が叩き出されたシーンのようにもちょっと見えるのが、また大変素晴らしい。
ケイト・ブランシェットから権力おじさんが叩き出されるとどうなるのかと言えば、舞台がちょっと貧しそうな東南アジアの都市にいきなり移ります。
「うわ、それはいやな感じするよね。白人様の再チャレンジの足がかりがアジアの発展途上エリアとかなんかちょっとひっかかっちゃうなあ」
などと思って見てたらそこから怒涛のつるべ落とし。
「あなた今南北格差のこととかちょっと考えていたんでしょうが、答えはちがいまーす」という衝撃の絵面に、「待て待て待て」などと思っているうちにエンドクレジットが流れ、客席のライトがつき、前に座って居たおじいさんが「わかんなかったねえ」と言いながら振り向いたのでありました。びっくりした。
女性も権力をもつと普通におじさんになる、っていう指摘とケイト・ブランシェットの見事な転び芸において秀逸な映画でありました。