晴天の霹靂

びっくりしました

9月になると森の生き物は

8月中はあまりにも暑くて一切やる気になれなかった梅干しの土用干しを、9月になってようやくはじめる気になった。

瓶の縁に塩を吹くようなガン決まりの梅をひとつずつそっとつまみ出しては、ベランダに吊るした青色の干網の中に並べていく。

かすかでも風が動くと途端に派手な香りが立ち込め、市販品の塩抜きしてある梅干しにはない野蛮なくらいの自己主張が鼻先にも指先にも伝わってきて目が覚める。

「少し日が短くなってきてはいるけど、今日は日没近くまで干せればいいだろう」などとのんきなことを思っていると数時間でなんとなく空の色が水っぽくなってくる。

ここまで育ててきた梅を今更カビさせるわけにもいかないので慌てて瓶の中に取り込むと、見計らったように土砂降り。

夏の天候がこうも不安定だと天気予報もろくに当たらないし、多めに梅干しを漬ける人などは年々厄介な目に合っているに違いあるまい。

今日はいくらも干せなかったから晴天を見つけてあと3日は干したい。

 

まだ暑いような、でも朝晩の風の質は少し変わってきているような。

そんなことを感じながら公園の林の中を歩けば、足元の低いところでカリカリと変わった音がする。

目をやると、すぐ道路沿いで両手にしっかりくるみを抱えて一心不乱に割っているエゾリスとふと目があった。

ずいぶん用心の悪いところで食事中であった彼は胸元の白い毛をとりわけ光らせながらぴょんとひと飛びで茂みの中に隠れてしまう。

かじりかけのくるみは慌てて落としてしまったのではないか。

そこに居るとわかっていればもっとそっと歩いたのに、ずいぶん気の毒なことをした。

 

そういえば、こんなに記録的に暑い夏を、彼らはどう乗り越えていたのだろう。

猛暑にかまけてリスという生き物のことを長らく忘れて暮らしていたこと気づいて、草間に耳を凝らしながら歩くと、たしかに、虫の声でも風の音でもないカリカカリカリという音がしばしば鳴っているのだ。

こんな暑い年にもちゃんとくるみは成って、9月になれば実は落ちて、そして寒くなる前にリスたちは慌ててそれを拾って貯めるのか。

 

人間だって寒くなるまでに冬の分の梅干しを仕上げておかないと。

林の中のくるみを割る音に耳を澄ましながら、あらためて今後の土用干しの作戦を練り直す、夏のようで秋の一日。