晴天の霹靂

上品な歩き方とかを習得できないまま人生を折り返すとは

ポテトチップスおよび梅

知り合いから家庭菜園のじゃがいもをもらった。

美味しいのはありがたいが、家庭菜園から直できた芋のやっかいさは十分乾燥されていないところにある。

油断してそのまま貯蔵していくと、いつの間にか土に還っていたりするから、干し網を出してきてベランダで乾燥させた。

乾燥させた芋はひとつずつキッチンペーパーでくるんで冷蔵庫へしまい込む。

 

早く食べた方が良さそうなやつはスライサーで薄く切って水にさらし、水分を拭き取ってからオーブンペーパーに並べてレンジに掛けてみた。

表4分、ひっくり返して4分、塩して軽く混ぜてもう1分くらい、軽く焦げ目が付くまで加熱するとちゃんとパリパリのポテトチップスになる。

「お?思ったよりポテチになって、これは面白いな」

などと喜んで、ついつい次から次へと怪しげな芋を全部ポテチにしてしまう。

コツは、大量の水分が蒸発するから表裏を返す時にレンジ庫内についた水分を布巾でちゃんと拭き取ること。

 

バリバリになった乾燥チップスをつまみ食いしながら、ベランダにさがっている空の干網を見ていたら、我が家にはもうひとつ懸念事項があるのを思い出した。

「せっかく干網を出したから、土用干しもしようか……」

6月に果実瓶で漬けて以来、文字通りそのまま塩漬けになってる梅があるのだ。

本来なら夏の一番暑い時期に日に当てて、しっかり日光殺菌してから瓶に戻して保存しておくべきものだ。

その夏の盛りに何をやってたかというと、あんまり暑いので全然動く気がしなかったわけで、なにも私のせいではない。

 

さっきまでじゃがいもが並んでいた干し網に梅を並べると、一気にいい香りが広がる。

季節でいえば「土用干し」ではなく、もはや「野分干し」である。

こんな季節に干していいのか悪いのかはよくわからないが、実りの季節らしい気分は盛り上がる。

 

秋の強い風が青い干し編みを通り抜けると、酸っぱくも爽やかな香りを嗅ぎに、寝ていた猫がふんふんやってきて、鼻先を風上に向ける。

ベランダのサッシの前にちょこんと座った寝起きの後ろ姿は、つやつやの黒い毛皮の中で肩甲骨がふたつ、もこもこと盛り上がった下に丸い背中が広がって、そこだけミニチュアのゴリラみたいに精悍でおかしい。

背中は野性的でなかなか立派なくせに、その上におもちゃみたいに小さな頭がのって、てっぺんにちょんちょんと蕾のような耳が尖ってるから、全体としてのシルエットは、やっぱりちょっと変なのだ。

 

「ちゃんと梅干しになるかねえ?」

声をかけると耳だけぐーっとこちらに向けてお座なりに返事をする。

猫と見上げる9月の唐突な梅干しと、抜けるような秋の空。