ディズニープラスにうっかり加入したせいで、読書といえばマーベル・コミックばかり読みがちな昨今ではありますが、
そんな中、平行して手にとった韓国ノワール小説『破果』が面白かったです。
高齢女性の殺し屋という主人公の設定が斬新だと話題になっていたのは気付いていたのですが、朝日新聞に載った著者インタビューを見たときに
「これはとりあえず買っておこう」
と思ってダウンロードしていたのでした。
インタビューの中の「女性であり高齢であることは二重の意味で社会から疎外されていること」という表現があるのが大変心に刺さったのです。
そういうゼラチン風呂みたいなジトっとしたものを、エンタテインメント小説の言葉で表現するとどんなになるものか。
私の周辺にも凝っているじっとりしたやつを、どうぞばっさりやってくれ。
年配の女性が請負仕事で殺人をしていく、その仕事風景もしっかり書き込んであるので「小さいものが大きなものをバッタバッタ倒す爽快感」みたいなところで印象に残りそうなもんではあるんですが、私は意外とそこじゃなかった、ってのが面白いのです。
小柄な女性が熟練のスキルでバッタバッタ、はたしかに結構なシーンではあるんですが、それよりも私は、主人公が周りの人から
「お母さん」
って呼びかけられるたびに
「私はあんたのお母さんじゃないよ」
と答えていちいちしっかり場の空気を悪くするところのほうが、殺人より胸がすくのでありました。
よく言った。毎回言って。
というのも、当然こういう嫌な感じって、大部分の人はもちろんへらへら笑ってやり過ごしているわけで、それはなぜならばイチイチ角を立てていたら生活していられないからだし、たぶん相手は言っても分からないタイプの愚鈍な人間であるからだし、言ってもわからないタイプの愚鈍な社会に適応しながらこれから先も生活していかなければならないからです。
別に社会に媚びなくてもいい腕の良い殺し屋だったらそれイチイチ苛ついて回ってもいいんだなあ、っていう場面を読むのは本当に爽快。
年を取って情にもろくなったり、身体がどこか悪くなったり、経験の浅い同業者にイキられたりしながらも心身の微調整をしながら淡々と自分の人生の黄昏期を歩んでいこうとしてる時に、ほんとにイチイチ外野がうるせえよっ!
という、素敵な殺し屋をあなたの心にもぜひ一人。
現在のAmazonの商品画像にはうつってないようですが、当初「ノワール×おばあちゃん?!」って書いた帯がついていたんですよね。
「そんな帯つけて日本中にばらまいたらたぶん暗殺されちゃうけど岩波さんだいじょうぶっ?」と思ったもんでした。
私はどうしても読みたかったので定価の2970円出して買ったけど、ショッキングなことにいつの間にかKindle unlimitedに入っております。
月額980円でunlimited加入してこれ一冊だけ読んで退会しても十分元が取れるので今のうちにお勧めしたい。