晴天の霹靂

びっくりしました

春の超個人的在庫一掃ビスコッティ

池の雪と氷もすっかり溶けて、ういろうみたいに淀んだ色の水の中にいつも通りの鴨が浮いている。

冬の間は日向でねじりドーナツみたいになっていたものが、すっかり安心して水中の藻などついばんだりする姿を見るに「待てば海路の日和ありだったねえ」などと思うものだ。

寒くてどこかから迷い込んできてしまったのだろうと思っていた孤高のアオサギも、暖かくなってもまだどこへもゆかずに同じく緑色の水の中にしんねり立っている。

銀世界の中で見かける姿が息を飲むほど美しかく見えたのはほんの数週間前のことだったのを思い出すと、すっかり薄汚れてどん臭く見えることには再びの驚きを禁じえない。

雪と氷のレフ板効果が素晴らしかったのか、春の空気で羽毛が汚れているのか。

 

時々。ちょうどこんな季節の変わり目なんかに思い立って「台所の粉類全部使う計画」が実施される。

薄力粉とか、強力粉とか、片栗粉とか、きなことか。

なんとなく中途半端なまま残っている粉っぽいものを、「そのうち使うだろう」と思って放っておくと、油断してる間にものすごく日数が経ってしまうことがある。

穀物類は時間が経つと小さいダニが湧きやすいと聞いて以来、しばらく手をつけてないものはたまに全部使い切って、新しい未開封のものに替える意識している。

 

むしろ、それを口実に、適当な焼き菓子を作る。

一応念頭におくのは「ビスコッティ」、イタリアで飲み物にひたしながら食べるというあのやたら硬い素朴な伝統焼き菓子だ。

油脂を入れずに二度焼きするので、仕上がりは犬のおやつみたいな歯ごたえになる。

今回は冷蔵庫に残っていたジャムがあったのでついでに入れてみたら、硬い上に奥歯にねちっとまとわりつく。

たいして甘くないうえに、油気もなく、硬い上に、歯にくっつく。

一般的にはこういうものを「わりとまずい」と言うのではないかという気はするが、私はわりとまずめの食べ物が、結構好きだ。

世間に流通している食べ物はどれもちょっと美味しすぎるので、わりとまずいものを食べたいときは自分で作るしかない。

さすがに人様に「どうぞ」と言って差し上げるようなものでもないのは理解しているので、こういう摩訶不思議な食べ物は、ただ私の記憶の中にだけ消えていく、個人的な珍味である。

 

まだ強力粉と片栗粉が半端な量残ってるから、あれでもう一回分作るかあ。

なんてことを考えながら、超個人的なるビスコッティに、ついつい手が伸びる。