晴天の霹靂

びっくりしました

犬も子どもも大人も、だいたいは前に向かって進んでいる

人気の少ない公園の遊歩道を歩いていたら、急に右足に何かずしっとしたものがぶつかった感触、それからすぐに背後から声が飛んでくる。

「すみませーん」

振り向くとすぐ足元でリードを引きずった小さな犬が嬉しげにこちらを見上げている。

 

先程、道の端でちょっとリードから手を離した犬と飼い主の女性がかくれんぼをしてる脇を通り過ぎてきたところだった。

犬がはしゃいで先回りしようとすると、飼い主がさっとそのへんの木陰なんかに身を隠す。

もちろん、犬はすぐに見つけて、一人と一匹は他愛もなく戯れていたのだ。

飼い主から片時も離れたがらないような人懐っこい犬相手なら、あんなふうに一緒に遊べるのか、いいなあ。

なんて、ツンデレ猫と暮らしている私は思いながら、脇を通り過ぎてきたところだったのだ。

 

「どうしたどうした。なんで私についてきちゃたの」

と思って見下ろすが、どうやら飼い主の年格好が私に近かったようでもある。

遠くで叫んでる飼い主の方に軽く頭を下げて、あまりかわいいのでちょっと撫でさせてもらおうかと下心をもってかがんだ瞬間に、犬は一目散に飼い主の方にUターンしていった。

嬉しげに引きずっていく赤いリードが揺れる。

人の目には束縛のリードみたいに見えがちだけど、実際のところあの子には生きがいのリードなんだろう。

なんか、かわいいもんみたな。

もう一度飼い主と目礼しあって、あっちとこっちに分かれていく。

 

雪が溶けて、犬も子どもも自転車も、いきなりまちなかに溢れ出した。

みんな長いあいだおうちでじっとしてたのだ。

私が子供の頃にスケボーと呼んだ物体に似た、車輪のついた板に乗ってる子どもが今年はいきなり増えた。

私の知ってるスケボーは本当に板に車輪がついているだけで、上に乗っても別に何が起こるでもなく、「はて、これはどうやって遊ぶのであるか?」と考えあぐねた挙げ句にそこらに放置されたもんだったけど、今のアレは楽しそうである。

ピーナツみたいに真ん中がえぐれた形をしていて体重を前後に移動することでどうやら平らな場所でも前に進んでいくではないか。

野生の草食動物みたいに細い足をした子どもたちがこともなげに身体をわずかにゆすりながら道をすいーっすいーっと進むのを見ていると、なんというかまあ不思議な気がする。

私はいつまでもあちら側にいるような気がするのに、実際のところはあんなに軽やかに、あんなに無心で、あんなに妙な動きで前に進んだりできないだろう。

 

そんなことより、今年は電動アシスト自転車ほしいなあ。でも高いんだよなあ。

などと思いかけ、人は大人になるほど、一心不乱に前にばかり進もうとしてしまうもんだろうか。