晴天の霹靂

上品な歩き方とかを習得できないまま人生を折り返すとは

雪深き街のストロングマン

近頃気になる人がいる。

家の近くの通りでよく見かける、犬の散歩をする男性。年の頃でいうとおそらく三十代後半といったところか。

雪で埋まりがちなこの冬の悪路を、車高が低いをものともせずちょこまか歩くミニチュアダックスフントは、あたたかそうな防寒服を着せてもらっていてかわいい。

そしてリードを引く人間のほうは、これがハーフパンツ姿なのである。

いや、さすがに生足ではない。

夏のランナーがよく履いているぴちぴちのサポーター、古き良き名称を使えば「俥屋の股引」みたいなものを履いている。

しかし、あの股引の素材が、かりに人類にまだ30枚しか普及してないNASA開発の近未来ハイテク繊維だとしても、あの薄さで氷点下7度の往来は、絶対に寒いはずだ。

事実この季節にも、走っている人は見かけるが、ハーフパンツを履いている人などみたことがない。

 

それになにより、彼は走っていないのだ。

いつ見ても走ってはおらず(なんなら信号が変わりかけても走らない)、薄着で犬を引いている。

ストロングゼロのロング缶を飲みながら。

 

修行か?強い意志をもって己の膀胱を鍛えているのか?

酷寒の中、薄着で外へ出て、冷たいアルコール飲料を多量に飲みつつ、自分の犬が好きなところで水分放出するのを見ながら、自分はどこまで尿意が我慢できるかというゲームに取り組んでいるところなのか?

 

あるいは、夜勤明けで明るい時間に帰ってきて、できるだけ早く意識のスイッチを切って寝てしまいたいが、すぐには眠れず、さりとて家では飲めない事情があり

考えた末犬をカモフラージュに使って外出。

最寄りのコンビニで強い缶酎ハイを一本買い、飲み終わるまで犬をぐるぐると連れ回して缶が空になり次第急いで帰って寝てるとか。

 

子どもにも若者にも、もちろんたくさんの物語があるが、もう若くない大人にも苦くてしょっぱい海より深い物語がある。

明らかに季節感のおかしい格好をして、雪深き往来でミニチュアダックスと一緒にストゼロを飲む大人には、もちろん多くの物語があるに違いない。

 

こちとらほぼ下戸だけど微アルのショート缶くらいならなんとか付き合えるから、ぜひいっぺん聞いてみたいものだ。

すれ違うたびにちょっと敬意を払わずにはいられない、謎の生態ストロングマン

今日も犬のほうがあたたかそうだ。