冬季オリンピックが行われているとやらで、名も知らぬウィンタースポーツを目にする機会がちょっと増えた。
近年ぐっと知名度が上がったカーリングを見るにつけ、私は懇意にしてもらっている美容師さんを思い出すのだ。
美人なのに私の頭の上にシャワーヘッドを落としてきたりする豪快美容師(五十代)は釧路出身の人だ。
そんな可憐な熟女がある時「カーリングは体育の授業でやるものだった」と言い出したことがある。
私も北海道の育ちなので、冬はどこの学校も雪か氷を使って運動させることに苦心してるのはよく知っている。
地域によるが、だいたいスキーかスケートだろう。
ややマイナーなところでスノーホッケーなんてものもやった。
だが「授業でカーリング」という人に会ったのははじめてだ。
しかも彼女は私より年上である。
「カーリングって日本に入ってきたの、比較的最近じゃないんですか」
「普通だと思ってみんなやってましたよ。前の日からビニール袋に水入れて凍らせて」
「……ん?」
「氷張った校庭で投げるんだけど、形がバラバラだからどっち進むかなんて全然わからないんですよお」
「え?漬物石みたいなのじゃなくて、氷を投げるんですか」
「そうそう。一応進ませたい方向に箒で掃くんだけどあんまり意味ないんですよねえ」
「あの、片方だけすべる靴は?」
「長靴、長靴」
それでは投石するときのフォームも、見慣れたアレというわけにはいくまい。
「なんか私が知ってるカーリングとだいぶ違うような気がします」
「私もオリンピックで初めてみたときびっくりしたんですから!」
素敵な美容師さんなのである。
私に拾った猫をくれたから言うわけじゃなく、想像力があって、立ち入ったことを決してきかず、人を傷つけることを言わないようにいつも気をつけている丁寧な人だ。
それほど多くの人が備えてるわけではない美徳である。
こんなに安心して話せる人はそうどこにでも居ないと思って、引っ越した後も一時間かけて通い、折々猫の成長の報告もしている。
それなのに。
40年前の釧路の校庭で長靴履いて氷投げて箒で掃いていたなんて(…しばし想像…)ますます素敵な人じゃないかっ!