近頃の映画は「本編よりメイキングの方が面白いんじゃないか問題」がちょいちょいあると感じる今日このごろ、NHKの『シン・仮面ライダー』を巡るドキュメントも非常に面白かったです。
撮影前、森山未來さんが「演技のすり合わせが必要だと思う」っていうのでメイン役者三人と監督で意見交換の機会をセッティングしているのに、ひとりで遠くに座って「僕からのオーダーはない」と沈黙、わざわざ空気を悪くしていく監督の図を見ていると
「なるほど、演技のすり合わせできてない感じと、監督がいると気まずくなる感じと、役者が戸惑ってる感じ、全部画面に写ってたな」
と思って、膝を打つ思いがしました。
あんなに苦労していた池松壮亮さんが、結果的にすごい大根役者に見えていたのも、思えば気の毒な。
『マッドマックス フューリーロード』も、現場の空気はめちゃめちゃ悪かったってよく聞くし、『シャイニング』のキューブリックはオーダーなしで延々とリテイクを繰り返すことで役者から普通じゃない演技を引き出した、みたいな話も聞いたことはあるし、映画撮影の手法としてはもしかしたらあることなのかもしれないですが、完成した映画に映っていたギクシャク感は、私は快適ではなかった。
明らかに現場でもっとも「人の感情の機微を汲み取るのが苦手である人」が、「ドラマがほしい、ドラマがほしい」って言って全員を困らせるのが面白く。
密着しているNHKクルーも「庵野さん、さすがにそれはちょっとないんじゃないか」と思ってる節がちゃんと映っています。
段取りでドラマを表現するのが仕事であるアクション部の監督が、オーダーどおり段取りを作り、かつ大事な役者の安全を守るという綿密さを必要とする仕事をこなしながら、ソレジャナイ監督にどこまでも付き合い続けようとする様子が、あっぱれ仕事人としてかっこいいのです。
「仮面つけてるから段取りに見えるのかもしれないけど、その下でみんな必死の形相でやっている」
っていう、ぽろっと漏らしたアクション監督の言葉を聞くに、「私もこの人のプランで撮った映画みたかったなあ」という気持ちにだんだんなっていきます。
クライマックスシーンの撮影でテスト中に「そんなじゃあ全部段取りだろっ」とついに監督激怒、「役者がアドリブでやった方がいいくらいだ」と言い出してからの、アクション監督の「そんなこと役者にやらせるわけにはいかない」、ではもう降りるしかないというところ。
決定的な決裂化と思いきや、一転、監督がほぼ泣きながら謝りにきたという話で、なんとなくちょっと現場ごとほだされてしまうのが、メイキング番組としてもびっくりのクライマックスです。
その現場で一番偉い還暦過ぎの男性が感情丸裸で謝罪に出向く、という事態一つとってもそんなことできる人ってたぶんこの世に何人もいないだろうなあ、とは思うのです。
そうやってできてしまうのか、ああいう奇妙な映画は。
たしかに「現場の雰囲気の悪さ」とともに「監督の悪意のなさ」も映画に反映されてるようには見受けられます。
ドキュメンタリー番組では主にアクションシーンを巡る現場の葛藤を取り出してフォーカスしていたのですが、私はアクション音痴なので「気になっていたのは全然そこじゃない」のです。
公安警察の手先にされた仮面ライダーが、どんな悪いことしたのか今一つわからない異形の怪人たちのアジトに次々乗り込んで予防的に暴力振るっていくのを見るにつけ、
「……すると、これは赤狩りってことか?」
というふうに見えてくる。
そうなると全然仮面ライダーには感情移入できない、というか、どの程度批判的な視線で描いているのかが全然見えてこない意図がちょっと怖い。
映画とドキュメンタリー、セットで見るとますます語りたいことが増えて、興味深い作品ではありました。
よく出来た作品だったら「面白かったね」で終わってしまいがちであるということを考えると、ある意味、是枝裕和作品あたりよりもお得だったりはしがちなのか。