「風呂場のエプロン」の話を、数日前からあちこちでしている。
風呂場のエプロンが、ある時いきなり落ちたのだ。
伝わる人には「ああ、そう」というだけの話だが、
伝わらない人には「風呂場のエプロン」という単語が全然説明できないことが、困ったことに妙に面白いと思ってしまう。
風呂がエプロンしてて、それが急に落ちるなんて、想像するとかわいいじゃないか。
「風呂場のエプロン」という単語が気に入ってしまった私はさも面白いことのようにいろんな人に吹聴した。
もちろん、聞かされる方はたいしておもしろくない。
本当に迷惑かけて申し訳ないが、私はそういうところが自制できないタイプである。
そんなこんなしてると、家にピンポン、と人が来た。
宅急便の心当たりはないがなんだろうか、と思いながら出ると、階下の住民なのだ。
「どうも配管にヒビが入っているせいだと思うが、お宅がお風呂場で排水するとうちの風呂場の天井から水が漏れてくる」
というような話である。
びっくりした私は、相手のほうがちょっとバツが悪そうにするくらいの勢いであやまってしまった。
たしかに、水漏れ箇所を見せてもらったら、いかにも古い配管のヒビからじわじわ滲み出る、という感じの漏れ方のようで、うちの使い方の不備や過失はなさそうなのではある。
謝られすぎても困るだろう、管理会社に報告して老朽化したところを治してもらうより仕方なさそうだ。
そういう関係のお仕事の人なのか、たぶんここから配管がこうきてここから染み出してるみたいなので、この機会にちゃんと修理してもらっちゃったほうがいいと思いますよ、
など、なんとなくなれた感じのことを言う。
それはそれとして、私としてはタイミング的に「風呂場のエプロン」のことばかり脳裏をよぎってしまうのだ。
エプロンに関して面白くもない話をやたらしたせいで、見当違いなところにバチでもあたったような後ろめたさを感じて仕方ない。
申し訳ない、私がつまんない話をしたばかりに申し訳ない。
急いで管理会社経由で業者さんを手配し、あらためて階下に報告に行く。
「明日見てもらうことになりました。また何かあったら言ってください」
平身低頭、電話番号を置いてくる。
そんな間も頭の中にどうにも「エプロンが」「エプロンが」とよぎって、人の良い階下の住人にエプロンの件を言いたくなって仕方ない。
ところでお宅の風呂、いきなりエプロン落ちません?
エプロンと配管のヒビは何も関係がないし、
階下の人はエプロンの話には興味がないだろうし、
そもそも別に面白い話でもない。
そして我が家の風呂場の配管修理はたぶん結構大事になる。
だいたい、私もしないエプロンを、なぜ風呂場がしてるのか。
エプロンという言葉の響きには、なぜちょっとウキウキした成分がまじってしまうのか。