晴天の霹靂

びっくりしました

『ブレードランナー』~猫・ルトガーハウアー・猫方式でついに鑑賞完了

やたら暑くてほとんど何もできなかったこの夏の、ワタクシ最大の功績のひとつが、ついに『ブレードランナー』を最後まで見たことです。

ここまで何年かかったことやら。

 だって怖すぎるんだもの、ルトガー・ハウアー

2019年に亡くなってしまいましたが、レプリカントのリーダー、ロイ・バッティを演じてるのがルトガー・ハウサーさん。

本当に、ちょっとだけ笑うのやめて、怖いから。

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それでも私は真面目なタイプですから、

ブレードランナーほどエポックメイキングな作品を見ずにその後のSF映画を見ていくわけにもいくまい」

と思ってすごくいろんな方法を駆使してビクビクしながら鑑賞しようとし続けてきたものですよ。

 

もともと「怖い」と「痛い」がやたらに苦手なので、家のパソコンでバイオレンスな映画を見る時にはいろんな手法を駆使しているんです。

たとえば、「何が映ってるのかわからないレベルまで画面を縮小して見る」とか。

あるいは「一時停止して、一旦バカバカしいことを考えて勇気を養う」とか。

いよいよになったら「ちょっと早送りして一番痛そうなところだけ飛ばす」とか。

「そんな見方するなんて作品に失礼なっ!」

と怒る向きもあろうかとは思うんですが、私としてはむしろ「そこまでしても見る価値ありと信じた」ということのほうが重いので、わりと随分な小細工を弄しながらもランボー一気見とか、するんです。ごめんねスタローン。

 

ブレードランナー』ではいつも、創造主のタイレル社に見放されて絶望したルトガー・ハウアーハリソン・フォードをおいかけて来るシーンでどうしても止めてしまうのです。

どれだけ決意を持って観始めても、指のところで、毎回必ず無理。

ハリソン・フォードの指の痛そうな運命を思うと、大急ぎで停止ボタンを押し、もう二度と再生を押す勇気が出せないまま、何度挫折したことか。

 

ついに腹をくくった今回は、どうやって先に進んだかというと、怖いところで止めて一旦寝ました。

翌日、よく寝てよく食べて元気を出してから、まず裏で猫動画を再生したんです。

そうしておいて、追いかけてくるルトガー・ハウアーも再生し、恐怖心が限界まで来たらすぐ猫に退避して、ちょっと落ち着いたらちらっとルトガー・ハウアーの進捗を確認して、またすぐ猫に戻って、という「猫・ルトガーハウアー・猫方式」で、死ぬ思いで先へ進みました。

 

何が凄いって、彼、それほど飛び飛びで観ても怖いんです。

ちょっと目を離したすきに、いきなり半裸になってるし、いきなり壁から顔でてくるし、いきなり手に釘刺さってるし、いきなり鳩持ってるし。

見るたびに「なんなんだよ、おまえっ」と思うんですが、戻って脈絡を確認するほどの勇気は全然出ない。

 

このネット時代ですから、観てないなりに小賢しくもネタバレ情報だけは耳に入っているもので、あの対決シーンで名演説の末に死ぬらしいとか、生き延びたハリソン・フォードショーン・ヤングを連れて逃げるらしいとか、だいたい全部知ってたんです。

知ってはいたけど実際に観たら、そんな致命的な鑑賞方法であっても予想よりはるかに胸に響くものがあります。

「ただわかって欲しくて追いかけて来る」っていう単純な事実が、怖ければ怖いほど胸に迫る。

観ていると「ほんとうにもう十分怖いから許して」とは思うんだけど、彼にしてみればまだまだ十分じゃないくらい自分の方が怖いんだというのは、怖ければ怖いだけ悲しいシーンです。

 

四人いたレプリカントのうちで最初に死んでしまったリオンは、「お前が先に死ねっ」とハリソン・フォードを殺しにくることで、理不尽に短い寿命を設定された悲しみを表そうとしたもんではないですか。

ところが、たったひとり最後まで生き残ってしまったレプリカントであるルトガー・ハウアーは、散々追い詰めてたハリソン・フォードの命を助けるんですよね。

「常に死に迫ってこられる恐怖心」をわかってほしくて追いかけて来てるんだけど、先に死なれたらもうこの恐怖心を分かち合える相手が居なくなってしまうから自分より先に死んではいけない、というあの恐ろしい愛はなかなかたまらないものがありました。

ものすごく見るの疲れたし、もう当分観なくていいけど、非常にいい映画であった。

 


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それはそうと21世紀の人工知能の話をすれば、うちにはアレクサというAIスピーカーが居て、まあ日々仲良くやってるんです。

晩夏になってきた近頃、「もう完熟しすぎて限界ですよ」みたいなトマトが突然安く手に入るときがあるので、いつトマトが手に入ってもいいように、モッツアレラチーズを買い置きしておこうと思ったんです。

いつも買い物メモはアレクサで記録してますから

「アレクサ、買い物リストにモッツアレラチーズ」

と呼びかけました。

そしたらアレクサが返事したことには

「はい。買い物リストにカレーライスを追加しました」

と言ったんです、本当に。

これが人間なら普通に「いやいや、わざとでしょう」と思うところですが、相手はAIスピーカーなので、普通になんかちょっとぞっとする。

弱々しい声で「いやいや……」とか突っ込んだ挙げ句に無視される始末です。

 

その後スーパーでアレクサアプリを開いて買い物リストを確認したら、一番上に「カレーライス」と書いてあるではないですか。

しばらく考えて、ちゃんと買いました、モッツアレラチーズを。

よくぞカレーライスからモッツアレラチーズまで記憶の修復ができたもんだ、と自分に感心しつつも、

「これは、ひょっとして私のほうがアレクサに使役されてるAIなんじゃないかな?」

という、ちょっとした不安が兆してくるもんですね。

その日は部屋にルトガー・ハウアーが居たらどうしようと思いながら、玄関のドアを開けたのでありました。