晴天の霹靂

びっくりしました

きっと君は世の中の怖さをしらなくて親をハラハラさせているのだ

大きなミズナラの木陰でカラスが鳴いている。

なんとなくむくっとしたまるっこいシルエットで、大きな口を開けて鳴くと鮮やかな腔内の赤が目立って見える。

「なんだか妙にひょうきんなカラスがいるな」

と思って目をやったら、そばにいたもう一匹のカラスが寄っていって、その大きく開いた口の中にすばやくくちばしを突っ込んだ。

ああ、子どもなんだ!

 

カラダの大きさは二羽ともさほど変わらないのだけど、片方にだけ何か甘えとか鈍くさみたいな雰囲気を感じ取ってしまうのは、巣立ちはじめの雛だからなのじゃないか、というふうに見てとれる。

木のある場所が好きな私は、どうしても生息域がかぶりがちなこともあって、子育ての季節はだいたい毎年カラスの襲撃を受けているが、雛らしきものを見たのは初めてだった。

飛ぶ練習でもするのだろうか、と思って足を止める。

 

子ガラスに並んで地べたに立っていた母ガラスは私が立ち止まったのを気に病んで、威嚇の声を出しながらぴょんぴょん、とこちらに向かってはねてきた。

大事な雛に何かされると思ってパニックを起こしているときの声の出し方でこそないが、それでも明らかに私に向かって強く訴えている。

「取り込み中なんでそっとしといてくれない?」

くらいの感じだ。

なんとなく、いつもより穏やかに話しかけられたので、こちらとしても丁寧に対応せざるを得ない。

「ああ、ごめんね。がんばって」

ご近所のカラスに対して仁義を守るのは大切なことなので、好奇心の方は諦めることにして、振り返ることもなく通りすぎる。

 

だけど本当は、カラスの子育てなんて滅多に見られないし、一番見たい姿なのではある。

例年通り私はびっくりするくらいあちこちの木の下で襲撃されたけど、そうこうするうちにカラスの方ではもうあんなに立派に育ったのか。良かったなあ。

ほんのちょっとだけ、カラスの子育てに参加させてもらえたみたいで、なんとなくうれしい一日。

ここらは結構キツネが多いから、気をつけたまえよ。