晴天の霹靂

びっくりしました

『JUMBO MAX』 ~いつの間にか過ぎ去ってしまった時の妖精

最近読んだ『JUMBO MAX』っていう漫画がすごく面白かったです。

JUMBO MAX(1) (ビッグコミックス)

JUMBO MAX(1) (ビッグコミックス)

 

 私の口からは説明しにくい文脈も多々あるので、Amazonの商品紹介ページから抜粋するとこんな話。

小田原で薬局を営み、美人の妻と義理の娘と共に、平凡だが幸せな日常を送っていた曽根建男。だがある日妻から妊娠を打ち明けられ強いショックを受ける。
何故なら建男は今まで一度も下半身が機能したことがないという秘密を抱えていた。妻の子は、自分の子ではない…そう思い絶望する建男。
そんな時、須磨岡という男から偶然謎のED薬を手にした建男は衝動的にこの薬を飲むと、下半身の機能が奇跡的に回復し衝撃を受ける。
建男は須磨岡に、この薬を自分が再現し、作ると宣言した。
だがそれは、建男の人生を大きく変える、危険な日々の始まりだった--!!
ED薬×愛×犯罪!!全く新しい、最高に刺激的なクライムストーリー、開幕!! 

 

 ED薬っていうものについて切実に考える機会はこの先もあまりないであろう私にとって何が面白かったって、まず主人公の冴えないおじさんの姿勢とスエット姿がいちいちものすごく胸に迫るのです。

 

申し訳なさそうにいつも猫背、メタボのせいで部屋着の腹か背中が常に出てる感じがとても多くのことを語って見えます。

本来一番リラックスするときの服装をしていても常に世間の期待とサイズがあっていない違和感を意識させられ続ける感じ。

快適でいようと決意する人ならば、大きいサイズの店で買ったり、あるいは筋トレでもしてサイズを落とせばいいという理屈は知りながら、なんとなく違和感の存在の方を認められなくてずっとそのままにし続けてしまっている感じ。

いつからこんなふうにズレてしまったのかよく理解できないまま、でもとにかく自分のせいなのだろうと思って目立たないように気をつけている感じ。

そういう切なさが、立っていても座って居ても、ひとつひとつの絵の中に全部見えてきて、読めば読むほど、このおじさんは「いつの間にか経過してしまった時の妖精」なのだ、という気がしてきます。

 

そしてまた、非合法なED薬の開発だけあっていろんな有象無象が寄って来てしまう中に、これまた「見た目においては世間の期待からだいぶズレているおじさん」の、完全に別のタイプが登場します。

自分が世間から軽く見られがちなのは承知の上で、そうならば礼儀正しくしていても何の意味もないからとばかり、搾取できるものは搾取して堂々と自己中心の欲望の人生を生きていく。

この自己中おじさんにたいして、主人公は「この人は前進して突破していくタイプだ」というこれまで見たことなかった種類の希望を見出す瞬間がまた素晴らしいです。

善意の人の中に芽生えた「悪の効能」みたいなものに、また読んでいてこちらまでブルっと勃つところ。

 

「漫画が絵であることの快感ってこういうことだったのか」と随分感動して続けて2周読んだのですが、発売されたばかりの新刊で、いくら楽しみにしてもそう簡単に続きが出るわけでもない。

 

そもそも、この漫画を知ったのはラジオ番組のゲストで作者の高橋ツトムさんが出ていたのを聴いたのがきっかけでした。

その番組中「初めての読者が手に取るのに他にオススメの作品はどれですか」と聞かれて「『残響』っていう短編集がありますよ」って言っていたのを思い出し、Kindleで検索してこれも買って読んでみたんです。

これがまた、さらに輪をかけてとんでもないことですよ。

残響(1) (ビッグコミックススペシャル)
 

 短編集じゃないんですっ!

高橋ツトムさんの短編集は、調べてみたら『四季彩』という、全然別のタイトルじゃないですか。

別に悪気はなく単にいっぱい書いたから間違えたのでありましょうが、まさかこっちは作者が自分の作品集のタイトルを間違えるなんて思いもしないので調べずに買ってしまっています。

途中でやめられない以上結局全3巻買うはめになってしまうではないか、どうしてくれる、と思ったもんでございます。

予定になかった出費だよっ!

と思いながらも、「お金ないのに」と思いながら買っちゃう作品とか、「もう寝なきゃ」と思いながら読んじゃう作品なんかに出会うのは、やっぱり嬉しいことだな。

 

 

 

公式サイトから3話分無料で読めます。

bigcomicbros.net