晴天の霹靂

びっくりしました

お彼岸、豊平川の鮭遡上

男やもめになって二か月ほどの父は、いつ訪ねて行っても静かな家でローカルラジオを聴きながらちゃんとソファに座っている。

一人だからとテレビの前で一日寝そべっているようなタイプの人じゃなかったことをを今更知って「結構立派な人だったんだな」などと内心感心した。

知らないことばかりだ。

 

持参した花を活けていると、ラジオが「豊平川で今年最初の鮭の遡上を確認した」と告げた。

「おお、来たか」

と父は嬉しそうに言った。

「おじさんとかおじいさんって上ってくる鮭を延々と見てるよねえ」

私がちょっと冷やかすと

「あれは面白いなあ」

としみじみ言う。

「ずっと見てられるな。四年ぶりに、よくかえってきたなーって。」

「えっ?毎年帰ってくるんじゃないの?」

父は一瞬、どこから突っ込んでいいか分からない戸惑いの顔で私を見る。

素っ頓狂な声を出してしまってから自分の言ったことを考えなおして、一拍置いて爆笑した。

そうだそうだ。鮭は毎年遡上してくるけど帰ってくる個体は毎年別の子だ。

彼等は毎年全力を振り絞ってのぼってきた川で力尽きて命を終え、そのダイナミックな生命のドラマが北海道のおじさん並びにおじいさんたちの心を強く惹きつけているのではないか。

都会に働きに出た子が手土産もってちょいちょい帰ってくるのとはわけが違うのだ。

 

父が淹れてくれたお茶で二人でおはぎを食べた。

それは実家の近くで道に迷ったときにみつけた新しいお店のもので、ずいぶん小さくかわいらしく、カラフルで写真映えするものだ。

「玄米のと、ほうじ茶の。どっち」

「味の想像がつかんからどっちでもいい」

仕方ないのでなんとなく粉っぽくて気管を攻撃してきそうな玄米の方を、私が取った。

子どもの頃、祖母が大皿にあふれんばかりにつくっていたおはぎは、餡と、胡麻と、きなこの三種類、大変シンプルなものだった。

「ばあちゃんの作るおはぎはでっかかったよねえ」

と笑う。

家庭でおはぎを作る技術は、すでにもう途絶えてしまった。

しかし、あの個体とこの個体は今はもう違うけれど、我が家の女系は代々姿かたちがよく似ている。面白いものだ。

 

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鮭帰る四年の世界旅終えて

 

 

 

 

今週のお題「おじいちゃん・おばあちゃん」