今週のお題「二十歳」
なぜ今週のお題がハタチなのだろうと一瞬思ったら、週明けが成人の日であるらしい。
成人式は「いかなかった」ということによって、その時の暮らしの雰囲気を記憶している。住民票もいい加減にしていたから通知もこなかったし、そもそも行くものだという認識もなかったので、特別疑問を抱くこともなく部屋で一人で座っていた。後日、同世代の友人に聞くと記念品に手帳か何かをもらったと聞いて、ふむそれはちょっと見てみたかった、と思いはした。
ハタチとは、とにかく部屋で一人で座っていた年だった。
私は夏目漱石が留学先のロンドンの、本に囲まれた小さな下宿で灯りもつけずにひとりぽろぽろ泣いていた、という話がちょっと好きなのだ。
頭の良さにおいても背負った期待においても比較にもならない人を引き合いに出すのもとんでもないことではあるが、知能の高低を問わず、「一生懸命やってはみてけど、それでいったい何になるんだろう」と思った瞬間に一人の部屋の日が暮れることということは、誰の身にもまま起こるんだろう。
何もない部屋だったけどラジカセがあり、よくFM放送を聴いていた。当時よく流れていたのがUAで、とても気に入ったので近所の蔦屋でレンタル落ちを見つけたときはすぐ買った。
この力強い伸びやかな声に心を癒されていたんだろうが、今思えば、『甘い運命』という歌の内容と、それを聴いているハタチの自分の状況のギャップが大変にユーモラスだ。 さらにいえば、ジャケットも面白い。私も、ちょうどこんなふうに隣家の壁迫る暗い窓に向かって座っていたに違いないのだ。”甘い運命”なしに。
ハタチとは、思い出したいことなどひとつもないが、とにかくそれはやってきて過ぎ去っていった。過ぎ去ってくれてよかったなあ、とは少し思う。