晴天の霹靂

びっくりしました

『ヘレディタリー/継承』~よく考えなおしたら案外嫌いじゃなかった

ホラー映画嫌いなんですが、新年早々、『ヘレディタリー/継承』(2018公開)を観てしまいました。

なんで私がそんな目に。

 

劇場公開時から「映画史に残るホラーである」というような噂はちらほらと聞いていたですが、何しろびっくりするのが嫌いなので、劇場で見ると死んじゃう可能性があると思って、配信を待ったのです。

配信がはじまったらはじまったで、「いつでも見られる」というお題目を言い訳に、怖い思いを一日伸ばしにした結果、結局めでたい気分の正月に見る羽目になってしまった次第。そんなに見るのが嫌ならそもそも見なくてもよいのではないかという説もある。

 

「怖い」と「楽しい」の神経回路が近い人って本当にどうなってるの。怖いものは怖いだろ。


【超恐怖】これが現代ホラーの頂点 11.30公開『ヘレディタリー/継承』90秒本予告

 

 

渋々見た『ヘレディタリー/継承』は意外にも嫌いじゃなかったのです。ホラー映画だと思っていると自分が何を見てるんだが全然わからないのがかえって不安をあおられるのですが、あとでいろいろ思い返してみるにホームドラマとしては切り口が斬新で、かつ身も蓋もないほどに正直だなという感じがします。

 

どうということのない家族の日常が淡々と描き出されていながら演出が違和感を誘い続けるのとがとにかく居心地悪いのです。

なんとなく変な雰囲気の中で

「友達の家の乱痴気パーティーに出たいから今日車使っていい?」

「じゃあ妹もつれていって

「えー、あいつ連れてくとつまんないからやだー」

というような日常描写。

私のごとき妹としてこの世に生まれた人間としては思い当たるところありまくりな普通の家庭の普通の風景。知ってる心象風景だけど、シンメトリーで汚れ一つない画面構成とBGMだけが明らかな違和感あって不気味にもほどがあります。

 

この感じは大人になって昔のことを急に思い出すときの感触に近い感じがします。子どもとして精いっぱいやり過ごすことに徹していた日常の些細な場面が、のちのち振り返ると深く自分のトラウマになっていて、その後の人生で乗り越えるのに苦労するパターンなんていくらでもあり、あの不気味な音色と不安を煽る視覚の歪みは、どんなに幸福そうに見える日常の中でも必ず根底にあったものとも言えます。もともと「愛情」と「悪意」なんて容易にひとつの瞬間の中に納まるんですよね。

 

 そんな「何を見せられんとしているのかがわからないけどリアリティありすぎる嫌な感じ」の中で、ホラー映画としては疑いようもないほど重大な要素が開始30分ほどであっさりかなぐり捨てられます。

「じゃあこれ何の映画なんだよっ」という困惑をよそに状況は最悪に向かって淡々と直進。完全に頭抱えたあたりで「はい、ちゃんとホラー映画でしたっ」ってなるので、むしろちゃんとホラー映画に着地したことに安心すらするという謎の構成。

「わーはっはっ、ホラーだホラーだ、ああよかった」なんて言ったりして。

 

ようするに、ジャンル物としてある程度恐怖のルールにのっとって作られたホラー表現より、おためごかしのない平凡なホームドラマの暗黒面のほうが生理的に怖いということを思い知らされてしまったのでした。

でも正直、慈愛と公正に満ち溢れたホームドラマよりこっちの方が私は励まされる。

 

 

 

ヘレディタリー 継承(字幕版)

ヘレディタリー 継承(字幕版)

  • 発売日: 2019/04/10
  • メディア: Prime Video
 

人をいたずらにびっくりさせるためだけのベロベロバー式恐怖シーンはないので、案外ホラー映画苦手な人でも大丈夫なのかもしれない。ただトラウマとして目に焼き付いてしまうであろうグロシーンはあるので念のため仮死状態になっても大丈夫な場所で見るほうが安全。

 

 

 

アリアスター監督の次回作、2月公開予定の『ミッドサマー』も気になるのですが怖いので、気力体力が充実してれば見に行くかもしれない。行かないかもしれない。


2020.2.21(金)公開『ミッドサマー』予告編