晴天の霹靂

びっくりしました

『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』 ~言及されてない事件のほうがでかくはないか

連休のときは気分を変えるために「普段見ないジャンルの映画」をわざわざ見ることが多く、要するにホラー映画を見たりしがちです。

今年は『死霊館』の最新作をみておりました。

 

やたらびっくりさせられるとか、びしゃーっとかドパーっとかがなくて、ホラー映画としてはスナック感覚で最後まで観ていられるのが大変よかった。

本当に怖いの好きな方面には少々物足りないのではないかという心配もしますが、私にはこれくらい安全運転でやってもらえるとちょうどよいぞ。

 

それにしてもアメリカのホラー映画は身体が柔らかい人が多い気がしますね。


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何に興味あったのかといえばサブタイトルの「悪魔のせいなら、無罪」というところ。

司法制度とオカルトが正面切って対決する話、しかもそれをオカルト側から描くなんて面白いに決まってるじゃないかと思ったのです。

 

そしたら何が驚いたかって、裁判で「悪魔のせいかどうか」なんて一秒も争点になった様子はなく、主人公の心霊うんちく夫婦は傍聴席で聞いてるだけ、殺人犯も普通に有罪だったってことですね。そりゃそうなるだろうな。

「殺人事件は悪魔のせいじゃないし、そもそも裁判所はそういうこと争うとこじゃない」という、極めて常識的な顛末です。

じゃあこれまで観てきたのは一体何に関する映画だったのか、と思い出そうとするが、もはやわからないという、全力迷子映画でありました。

それでも心霊うんちく夫婦はじめオカルト好きの人物たちはとくにくじけた様子もなく比較的朗らかにエンディングを迎えるあたり、信念を強く持つって楽しいことだなという勇気を与えられます。

 

その「悪魔のせいじゃないので、有罪」の殺人事件はちゃんと裁かれたので良かったんですが、

途中で出てくる隠居神父に実は隠し子がおり「聖職者に子供がいてはまずい」という理由でこっそり地下で育てた、というとんでもないネグレクト事件が発覚していることは見逃し難い点です。

その隠し子が「黒魔術を使って俺たちのクライアントを困らせているっぽい気がしてきた」ということで心霊うんちく夫婦が対決に向かうも、なんじゃかんじゃやってるうちに隠居神父と隠し子はその場で変死。

事件としてはそっちのほうが大きいようにおもうのだけど、その調査はどうなったのか?

 

少なくても心霊うんちく夫婦は、それほど不運な生い立ちの人と対決してる場合ではなくて、奪われた社会生活とか教育とか人権とかを復帰するための助けくらいはするのが普通の対処であったはずで、いったいなにゆえ「この人は助ける必要なし」と思ったのかが判然としません。

悪魔のせいで身体が柔らかくなりすぎちゃった少年(最初のクライアント)も大変だったかもしれないけど、父親の社会的立場を守るために人生奪われたのは問答無用にひどいことですよ。

心霊うんちく夫婦こそが、数十年に渡るネグレクト、軟禁、変死(あるいは父娘の心中)の現場に居合わせた唯一の証人となったはずなのに、「いやあ、終わった終わった」くらいのテンションで爽やかに帰っていけてしまうのは法律上どういう扱いなのか。

 

「全然怖くはないが、内容もさっぱりわからない」というホラーもあるのだな、と教えてくれた一作でした。いや、面白かった。