晴天の霹靂

びっくりしました

『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』~評判高い理由はわかった

「子ども向けアニメだと思ってナメたらあかん」と評判うなぎのぼりらしい『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』を観てきました。

悪くなかったんだけど、口コミに背中押されて見る前のハードルをちょっと上げすぎた。


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悲しいかな、こちとら2023年以降「面白いアニメ」と言われると『アクロス・ザ・スパイダーバース』とか『ミュータント・タートルズ』とか『THE FIRST SLAM DUNK』とか、せめて『君たちはどう生きるか』あたりと伍するものを期待するようになってしまっているのです。

そういう気持ちで行くと、猫娘がわりと記号的なかわい子ちゃんだったり、セリフ回し冗長だったりするのを観るたびにいちいち引っかかって、「あ、うん、そうか。そういう感じで来るのか」なんて期待値が少しずつ下がったりするもんです。

なおかつ、この季節あるあるなんですが、寒い中出向いて行って、映画館あたたかいものだから途中で一回寝ちゃったりなんかして本当に申し訳ない。

 

ただ鑑賞後、家に帰ってから落ち着いて思い直すに、鬼太郎のキャラクターを使ってがっつり横溝正史の世界をやりつつ、かつ横溝正史だったら絶対悪役にならないタイプの人が実はあれこれの実行犯だったり。しかし別に犯人探しが主軸ではなかったり、という幾重にも工夫を重ねてあるストーリーは結構良かった。

なにより、鬼太郎が子どもたちのヒーローになって行く過程でどんどん背景化されていってしまってあろう戦後水木しげる一人で抱えこまざるを得なかったはずの悪夢をきっちり引き受けて表現しようとした志にはなかなか心動かされました。

 

『総員玉砕せよ!』とか『敗戦記』とか水木しげるの描いた戦記ものは好きで読んでいますが、水木サンは淡々と、どうかすると他人事みたいに壮絶な南方戦を描いているので、さらっと読み進んでしまいそうにもなるのです。

そこまで俯瞰できるようにならなければ描き残せなかったというのが生き残った人が抱えた辛さそのものなんでしょうが、そこからあまりにも長く時が経って記憶が薄れてしまってきている我々のために色を付け音を乗せ、もう一度生々しさを引き戻してくれるのが今回のアニメの要だったように思います。

しかしなあ。だからこそ、絵のタッチとか、セリフ回しとか、もう少し踏み込んで斬新さを見せてくれたほうがテーマの腹のくくり具合とバランス取れたんじゃないかなあ、というのは大変気になるところ。

惜しまれる。

 

 

アニメで鬼太郎に出会った人にはぜひとも水木しげるの戦記物も読んでもらいたいと、それはこの作家を知る人はきっとみんな持つ願いでありましょう。