晴天の霹靂

びっくりしました

怪談『ゴルフを愛する人に対する冒涜』

随分暑い日である。

外出先から戻ってくるのに、散歩がてら少し遠回りしてしまったことを後悔しはじめていた。

子供のころと比べても、年々夏は暑くなる一方で、ちょっと無理をするといきなり具合が悪くなったりするから怖い。

さっきから頭痛がひどいし、足の筋肉がピクピクしはじめている。

家はもうすぐ近くだ、急いで帰ろう。

よろよろ歩いていると、正面からゴルフバッグを抱えて歩いてくる初老の男性に声を掛けられた。

「ゴルフ練習場はどこですか」

今か、よりによってこのタイミングで道を聞かれるのか。

やや絶望を感じたが、私が知らぬふりをするとこの人もまた炎天下の中で途方にくれるのだろうと思うと、なけなしの体力を振り絞ってでも対応する気になった。

「えっとですね、この先に白い大きな看板見えてますよね。あそこで右に曲がってそのまままっすぐ歩いていくとあります」

ああ、ありがとう。とやや高飛車な雰囲気の男性はスタスタと歩いていく。

意外に元気なその後ろ姿を見ていると、急に不安になった。

そもそも私は極端な方向音痴である。

毎日通う駅の場所すら人に説明できないのに、自分に縁のないゴルフ練習場の位置を正確に伝えられたかどうか、思い返すとだいぶ怪しい。

間違えていたらどうしよう、悪いことをしてしまったかもしれない。

しかし今更どうしようもなく、くよくよしながらもまた家を目指して歩き出す。

ふと見ると、路上に不気味なものが落ちている。

黒っぽい袋は一見靴下のように見えるが、中からのぞいているのはゴルフボールだ。

あの人の落とし物に違いない。

追いかけていって届けるついでに、念のため別の人に場所を聞き直すように言った方がいいだろうか。

……しかし、自分もあまりにも体調が悪いし、他人の靴下はちょっと不気味である。

迷いながらその靴下を拾い上げようと屈んだそのとき、いきなり真上から怒鳴り声がした。

「ゴルフを愛する人に対する冒涜ですよっ」

さきほどの男性が目を真っ赤に充血させてゴルフクラブを振り上げて、真正面に立っている。

ああそうか、わたしはもうだめなのか。

と思ったところでただれたアスファルトの上に叩きつけられ、グシャリと世界が暗転する。