晴天の霹靂

上品な歩き方とかを習得できないまま人生を折り返すとは

アリョンカビスケット97円

ロシアに行くと「アリョンカ」というチョコレートがよく売っている。

別に美味いともまずいとも思わない普通のチョコレートだが、パッケージの少女を見つめると目をそらしにくい仕組みにはなっており、しばしばロシア土産として頂戴した折にはその表情によってしばらく印象に残る。

 

 

ひさしぶりに業務スーパーにいったら、そのアリョンカチョコレートのビスケットが売ってあった。

日本でアリョンカが売ってるのは珍しいなあ、と思ったことに加えて、いつものごとくアリョンカちゃんと目が合ったが最後、反らしがたくなってつい購入に及ぶ。

美味くもまずくもなく特別な工夫をしている様子などもあまりない普通のビスケットで、97円と安くて結構だ。

 

天気のさえない一日だと思っていた夕方からいきなり豪快に雨が降り出した。

猛然と皿に首を突っ込んで首輪のネームプレートをカラカラ言わせながら餌を食べていた黒猫がびっくりして顔を上げたくらいの雨音がする。

 

アリョンカビスケットを三枚ほど持って、安いコーヒーの粉で軽めに抽出した水出しアイスコーヒーをコップに注ぎ、強い雨音でシールドされているベランダに出た。

スプラッシュマウンテンくらいの水しぶきを浴びながら、ビスケットをかじり、薄いアイスコーヒーを飲み、雨に煙った景色を観察する。

 

西方への旅は初七日で三途の河のほとりに出るというから、先だって送りだしたうちの虎猫もそろそろ川べりが見えてくる筈なのだけど、こんな日でもあちらは降らぬものだろうか。

いかなるときも身綺麗だった猫にしては非常に残念なことに、急な病でエコー検査をしたために腹の毛をつるつるに剃りあげられてしまっている。

今や裏から見ると気の毒なハゲ猫なのだ。

あのまま濡れては寒かろうなあ。

いろいろ、うまくやってるのかねえ。

 

愚にもつかぬ考えごとにふけりながらアリョンカビスケットを食べ終え、アイスコーヒーを飲み干すと、部屋の中では黒猫がいつも通り、しきりに食後の毛づくろい中である。

よしよし、と頭を撫でると盛大に喉を鳴らしてご機嫌を主張する。

よくあるような、特別なような、2020年初夏の夕立。