晴天の霹靂

上品な歩き方とかを習得できないまま人生を折り返すとは

踏んだり蹴ったり滑ったり

年始から「162円の不明な請求がある」というあんまり釈然としない理由で財布代わりのデビットカードが止まった。

仕方ないので、急ぎ再発行手続きをしようとしたところ、案の定webサイトのログインパスワードが通らない。元来、アカウントやパスワードの管理はかなりしっかりやってる方だと思うのだけど、銀行はパスワードの種類が多すぎる上に「どっちがどれだっけ」とやってるうちにロックが掛かるのはしょっちゅうだ。

「こんなこったろうと思っていたよ!」

とぶつける宛もない憤懣を抱えながら郵送での初期パスワード再発行手続きとなる。

 

一週間ほどして初期パスワードが届く。

やっとサイトにログインして再発行手続きをする。今度こそ順調と思っていたら、最後の最後で、口座自体の暗証番号みたいなものがあると言ってくる。なんだそれ、カードの暗証番号か。別の何かなのか。心たりを試すうちにロックが掛かり、再び暗証番号を郵送で再発行手続きとなる。

 

財布代わりのデビットカードの再発行にいつまで掛かる気なのか。途方にくれつつアプリでカードの明細を確認したところ、停止からしばらく経っているはずのカードからNHKプラスの引き落としだけはされている。

……もう何がどうなってるのか、世界の仕組みがわからない。

 

年女だというのにこの年始の滑り出しはどうなんだ、とぶつくさ考えながら洗車場の前を歩いていた時だ。

ふと足元をみると洗車場で使った水が歩道まで流れてきてずいぶんな氷り方をしている。

「これは非常に危ないな。さすがにこの洗車場はだめだろう」と思っていた瞬間に片方の足がすべる。

「おっと危ない」と逆の足を踏ん張ると、当然そこも氷である。両足を交互に氷の上でツルツルしながら、マルクス兄弟のコントみたいに歩道を横切っていって、最終的に歩道脇の雪山に顔から突っ込んだ。

眼鏡の鼻あてが曲がり、左の膝小僧を擦りむく、という大人としてはだいぶメンツに関わる転び方である。さすがに中年になって雪山に顔から突っ込むというのは「今際の際の走馬灯にも出てくるんじゃないかなあ」と思うくらい残念至極なことだった。

 

むこうから歩いてきた男性が「大丈夫ですか大丈夫ですか」などと慌てて声をかけてくれる。「大丈夫です大丈夫です(名誉と羞恥心以外は)」と答えつつ歩き出そうとすると、なぜか呼び止められ、剥き身のペットボトルを渡された。「?」と思いながらも、動転してるので思わず受け取ってそのまま帰ってきてしまう。

たぶん、その人は私が転んだ拍子にバッグから落としたミネラルウォーターだと思って拾ってくれたのだろう。

しかし、帰ってよく見ると、それはどうやら水ではなくて、なんらかの液体の詰め替えパックらしいのだ。洗車場だったことを考えると、洗剤とかそういうものである可能性が高い。

たぶん、私が面白い感じでツルツル転ぶのを「あれあれあれあれ」と見ていたであろう洗車中の誰かは、通りかかった人がそこに置いてあった洗剤の詰め替えをぱっと取って親切に私に手渡すのを見て「すいません、それ自分の洗剤です」と言い出せず、私が怪訝な顔つきでペットボトルを手に帰っていくところを見送ったんだろう。

私も気の毒だがその人も気の毒だし、善意で人の洗剤を私に押し付けてしまった人にも申し訳ない。

 

2025年は冒頭から細かい踏んだり蹴ったりをコツコツと積み上げてつつある。一体この先は、大丈夫なのか。