晴天の霹靂

びっくりしました

ちはやぶる ~パリス・ヒルトンのインスタのようなものだとしたら

ちはやぶる、と聞けば落語の滑稽噺がまっさきに思い起こされる育ちなので、かるたとなれば札は取れるが、意味の方は現代語訳を読んでもあまりピンと来ない。語感はやたらゴージャスだけど、くくり染めって言われても、ねぇ。

田辺聖子小倉百人一首

これが、じっくり読むってのは大事なことで、最近になってすごいことを発見してしまった。

このめっちゃ大げさな歌、なんと屏風を見て詠んだそうだ。……屏風って。

どこかの皇后さんの屏風が完成したのでそれをお祝いする宴で詠んだのだという。「屏風完成のお祝い」というのも現代人としては大いに引っかかるところではあるが、それはさておき要するに、業平さんは屏風をヨイショするための要員として呼ばれて行ったということじゃないか。

「じゃーん、これが新しく作らせた屏風でーす」とか見せられて、「ほほお、これはこれは」「実に素晴らしい出来で」とか口々に感心してみせたあとで、それぞれ知恵をふり絞って歌を作るんであろう。

 

とんだ無茶振り、とは思うが、もしそこで自分の隣あたりに座っている業平が朗々と「ちはやぶる~神代もきかず~」とか言い出したら、「オイオイ、屏風だよ屏風」といったん顔を見るだろう。さすがに吹き出しはしないまでも「お世辞もすぎれば無礼なんじゃないかなあ、大丈夫かなあ」くらいは思いそうなものだ。

後々、仲間内でバックヤードあたりでくつろいでいるときに「お前、さすがに神代はやりすぎじゃない?」「いや、発注芸術なんだから分かりやすいのが一番なんだよ」くらいのやり取りがあったろうか。

あるいは皇后の方も気のおけない女子会で「プレイボーイってあれくらいいけしゃあしゃあとなんでも褒め慣れてるものかねえ」くらい言って笑ったか。

 

ときに私はパリス・ヒルトンのインスタグラムを見るのが好きだ。

彼女はあきらかに自分では何もしてない料理風景とか、物心付く前からこんなに成金趣味で大丈夫かと心配になるほど豪華な子どもの写真とかを定期的にアップしている。

それらサービス精神に溢れた写真に向かってタイミングよく「今日もきれい!」「パリスの作った料理食べたい!」「こどもかわいいー」などと予定調和でわかりやすいコメントを付けるのが大向うの仕事であり、デジタルとは言え絶妙の呼吸で成り立っている素敵空間である。センスさえ良ければ大げさなくらいでいいのだ。

 

ファンとのコミュニケーションまで含めたパリス・ヒルトンというキャラクターを好きである以上は、皇后の屏風を褒めすぎる業平のことも好きになったほうが道理に叶うってもんだ。お調子者になるにはセンスがいる。

稀代のプレイボーイ、というのは伝説ではなくて、ことによると本当にこの人モテモテだったのかもしれない。だって、ちょっとかわいいし。