今週のお題「クリスマス」
暮れもいよいよ押し迫ってくるさなか、スーパーを覗けば、クリスマスだ、冬休みだ、帰省だ、忘年会シーズンだと、ちょっとしたパーティー感をだす演出に余念がありません。やや目新しかったり、なんとなく洋風だったり、カラフルで子どもがヨロコビそうだったりする食材が目につくところにひしめき合います。
こちらとしても、普段わざわざ買う機会が少ないものではあっても、元来は好きだったりもしますから
「そういえばしばらく食べてないな。たまにはちょっと買ってみようか」
なんて、何の気なしに買わないでもない。
家に帰ってみれば行きがかり上、パプリカでちょっと浮かれた感を出したパスタをトリュフクリームで和えたのと、安くなってたチキンのフライをグリルであたためたものを皿に並べており、おまけに出先で人からもらったサンタクロースの絵のついたボンボンチョコレートまでデザート代わりにテーブルにのせるにあたって、気が付けば完全に「一人でクリスマスを祝ってる人の図」みたいなものが仕上がっています。
「しまった、誰かが私を陥れようとしているっ!」
などと慌てて飛びのいてみても時すでに遅く、人類の行動に自由意志などないという現実をチキンとともに噛み締める夜を過ごすのです。嫌じゃないけど同意した覚えもない。
かくも雰囲気にのまれがちな巷はどこも劇的に人が増えてきており、随所で
「こんなにたくさんの人、普段はどこにいたんだろう」
と頭をひねります。こちらがそう思っている時、向こうもまた同じことを思っているもの、お互いクリスマスによっていぶりだされてきた亜空間の住民である可能性が高いのは確からしいのです。
暗躍する亜空間の民の存在の証拠を発見したのは、パーティー用食材などが目いっぱい品出しされて大わらわになっている冷凍食品売り場でした。こんな激戦区において目につく、あきらかに不自然な巨大な隙間。
「今ぞ勝負とばかりに埋め尽くした売り場に、この謎めいた空虚はいったいなんだ」
と詳しく目をやれば、そこは毎度おなじみ「冷凍讃岐うどん5食200円」という値札が「品切れ」という究極の存在感を主張しているではありませんか。
この後に及んでまだクリスマスからも年越しからも新年からも身をかわし、いつもの冷凍うどんを食べて過ごそうと固く決心した意志の強い讃岐うどんレジスタンスたちが買い占めたのだと思えば、見えない同胞が開けた空洞に向かって心の中で呼びかけずにはいられません。
ああ本当に何も作る気力がないほど疲れたときはレンジでアツアツに温めたうどんに生卵を落として醤油をたらし、熱いうちに猛烈にかき混ぜた釜玉うどんだけで、我々の胃と心は温まるのだよね、と。