晴天の霹靂

上品な歩き方とかを習得できないまま人生を折り返すとは

朦朧と読む『デューン 砂の惑星』

ある朝目が覚めたら体温が39度になっており、しばらく寝ておりました。「え、人体が39度になるまでの間にはもうちょっと段階とか踏むんじゃないのっ?」と、とりあえずちょっとウケたりはしたものの、あとはただただ猫に餌をやって、ポカリスエットを飲んで眠るだけ。いざってときにはポカリが命の水なので本当に非常用にちょっと買い置きしておくの、重要ですね。

 

高熱だったせいか、めずらしい夢を見ました。

自分の思考が言葉で放射状にバーっと広がっていく様子が視えたんです。真ん中が、なんだったんですかね、どうせ「風邪」とかロクでもない単語だったのではありましょうが、そこから5,6本の枝が出て新しい言葉がぶら下がって、そこからまた枝が出て。そりゃあもうすごい速度で言葉の塊が増殖していくのを、俯瞰で見て「なるほど思考ってこういうふうに行われてるんだ」とずいぶん感心したもんです。書かれてる言葉を一個一個読みたいな、とは思うんですが、増殖の速度が早すぎて視力がおいつかず、「手におえないほど早い」ということが分かったのみ、だったんですが、熱でも出ないことには自分の脳内を夢に見るなんてなかなかないんじゃないかと、非常にレア感がありました。

 

現在は平熱まで下がってしまったので「うん、あれはいわゆるマインドマップってやつだったな」と、常識的な理解が先に立ちぐっと凡庸な感じになりますが、どこかで見たようなやつだったとしてもリアルタイムですごい速度で増殖していくのをぼーっと見ているのは実際楽しかったです。布団の中でぼんやりした頭で「やはり熱というのは意識を変性させるのだな」なんて考えつつ、寝たり起きたりポカリを飲んだりしておりました。

 

そんなこんなことがあったせいでなんとなく熱が下がりはじめたあたりから「コレはアレだな」ということで『DUNE 砂の惑星』気分になり初めたのでした。

砂漠のスパイス”メランジ”であれ、70年代に米国で流行ったサイケデリックな粉であれ、高熱であれ、「何らかの刺激によって意識が変性して、うっかり世界とか変えちゃったりして」という危うさの娯楽を高熱の床で再発見(した気になり)、37度台くらいまで下がりはじめてからちょこちょこKindleで再読して「前に読んだときより面白いかも」などとヤバい読書に興が乗ったものです。発熱読書、楽しい。

そうは言っても長い小説なので一回風邪引いたくらいのことで最後まで読みきるってわけにもいきませんでしたが、つまみ食い的に読んだわりには、なかなか印象深い乙な読書体験でした。

 

かくて4日ほど寝込んだあと、めっきりよそよそしくなった猫にしきりに詫びつつ布団を干し、のどぬーるスプレーと龍角散を買いにいって、まったく意識とか変性しない日常生活へ復帰しつつあります。帰還できてよかった。

 

 

今週のお題「好きな小説」