小学校の近くを歩いていたら、敷地のまわりの柵みたいなところに男子児童が一人で腰掛けておりました。
とくに周囲に友達がいる様子でもなく静かにしていたのが、何を思ったか誰もいない歩道に向かっていきなり大音声で呼ばわることには、
「いつかお会いしましょう。付き合ってください!」
……いや、順番。
秋のもの寂しさをかこつ私が最近久々に夢中になった一連のロマンス劇がありまして、それが熊本のエミュー23羽脱走でした。
ちょっとずつ捕まっていく様をいろんなニュース動画で楽しみに見ていたのですが、まさに恋愛群像劇を見るときめきにあふれていたのです。
相手の気持ちがうまく図りきれないタイプの人は、無理な距離の詰め方をして、お互いいたずらに傷つくだけで結局物別れ。
逆に、上手に捕まえる人は、相手の様子をじっと見ていて「今だ」というタイミングでパッと近づいて迷いなく抱きしめます。
エミューの方もほとんど暴れることなく、抱きしめられて安心したふうにおとなしくなる様子を見てると
「末永くお幸せにね」
などと思っては盛り上がったものでした。
例えば、私が思うにこの完璧なバックハグは『ゴースト ニューヨークの幻』のろくろのシーンです。
当時の若者たちは甘く切ない「アンチェインド・メロディー」とともに見せつけられたデミ・ムーアの愛らしさに刺激されて、いきなりショートカットにするほどの衝撃を受けたものでした。
運さえよければひょっとすると人生にはこういう瞬間も、あるとか、ないとか。
一方こちらの緊張感のあるシーンは、『カサブランカ』の飛行場のシーンですね。
リックのこともラズローのことも好きなのだけど、どちらを選んでもなにかを失う美女イングリッド・バーグマン。
君は永遠に行ってしまって、きっともう会えないのだね。
愛はどうやら思い切りとタイミングであり、そしてそれらは脱走エミューから学ぶことができるのだ。
虚空に向かってひとり愛の告白の練習をする秋の少年よ!