アマゾンプライムで『ホドロフスキーのDUNE』が入っていたので観たのですが、これが妙な具合に面白い映画ありました。
フランク・ハーバードのSF小説『DUNE 砂の惑星』に感銘を受けたホドロフスキーが映画化をしようと決意する、1974年にはじまる話です。
カルト映画で名を挙げ始めていたホドロフスキーが、ギーガーやらメビウスやらダリやら、世界中から尖った人材を集めてきて、綿密な絵コンテをつくり資金集めの段階まで進みます。
ところがホドロフスキー、
「この映画は12時間。いや20時間になるっ!」
とか訳わからないこと言って譲らないものだから、そんな誰が見るんだかわからないものに金を出してくれる会社はなくて、頓挫してしまうという話。
どこに企画を持ち込んでも
「絵コンテは素晴らしいんですけど。あの変わり者の監督なんとかなりませんか?」
って言われちゃうのは、こちらとしても「まあそうなるでしょうね」って思います。
とはいえ、40年経って御年84歳にもなったホドロフスキーがポケットから紙幣を取り出して、興奮でちょっと震えたりなんかしながら
「こんなものただの紙だ。こんなもののために私の頭の中にある素晴らしい作品が作れないなんて馬鹿げてる!」
と激昂するシーンは(どれくらい真に受けていいのかやや困惑しながらも)感動的です。
資本主義に魂を包摂されない男ホドロフスキー(扱いにくい)
すべてを掛けて取り組んだ企画が頓挫してしまったところで、1984年デビット・リンチ監督で映画化が実現されてしまいます。
リンチほどの監督ならばこの難しい作品の映像化を成功させてしまうに違いないと、落ち込むホドロフスキー。
「ショックで死んじゃうから見に行くのやだ」
とダダをこねるところを、息子に
「そんなことでは魂の戦士とは言えないぞ!」
と叱られて見に行ったそうです。どんな親子関係だ。
ところが、しょんぼりと劇場に向かい、息も絶え絶えで観始めて、すぐにみるみる元気を取り戻す。
「やったー!これはひどい!」
そのへんははちゃんとした凡人なんだな、と思って共感を持って強くうなずく、白眉のシーンです。
ホドロフスキーをそんなに喜ばせたリンチの『デューン』ってどんなものかと、これもアマゾンで見てみました。
たしかに、ひどいといえばひどいんだけど、全然退屈しないで最後まで見られてしまうあたりはさすがとも言えるのです。
ゲラゲラ笑いつつも、そんなに馬鹿にしたもんでもないぞ、っていうか私はわりといいけどね、と思いました。
ただ、ホドロフスキーの頭の中にあった壮大で綿密な妄想と比べると、しょぼかったのであろうというのは、容易に想像できる。
で、ホドロフスキーの方は、『映画版DUNE』としては結実しなかったけれども、あちこちの映画会社にあるその綿密な企画書がその後の多くのSF作品に影響を与え続けている、ということで、叶わなかった夢の話としても、妙に陽気な老人の話としても、魅力的な記録映画でありました。
何が彼をそれほど夢中にさせたのか、と思って原作も読んでいるんだけど、私は「見たこともないものに対する創造的イマジネーション」が乏しい方の人間なのでSFの良し悪しって実はほとんどわからない。
ただ、恥ずかしながら馬鹿みたいな感想を書いておくと「長いけどわりと面白い」
そしてなぜそんなに「DUNE」ばかりあれこれ見てるのかといえば、今週末、満を持してドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品が公開されるからです。
予告映像を見るに、さすがに迫力の世界観。
これも未完のDUNEがあったからこそ、ここまで来たってことかい、と思うとまたいろんな意味で楽しみになってくるのでありました。