晴天の霹靂

びっくりしました

『石狩挽歌』~オンボロロをめぐる文明間戦争とあの人の孤独

大変地味な話題ですが、この春は北海道でニシンの群来(くき)があったんだそうです。

大量のニシンが産卵のために浜にやってきて精子で海が白く見える、というナショナルジオグラフィックっぽい光景です(見たことないけど)。

半年ほど前に鮮魚のおいしいスーパーの近くに越してきてニシンの丸干しのうまさにハマっている私としては、気になるニュースでもありました。

 

ニシンの群来といえば『石狩挽歌』。

久しぶりに聴いてみたら年のせいかお里のせいか、手が震えるほどいい曲じゃないかとびっくりしたのです。なかにし礼、天才だな。


石狩挽歌  北原ミレイ  2007 Mirei Kitahara   Ishikari Banka

 

毎年のように群来ていた時代にはニシン漁は巨大産業で小樽のオタモイ岬に「ニシン御殿」っていう巨大な豪華屋敷が建ったが

「今じゃさびれてオンボロロオンボロボロロ」

のところの哀切がたまらない。

 

ニシン御殿は私も子供のころ見学につれていかれて、

「この広い板の間にびっしり漁師さんが雑魚寝して延々とニシンを捕ったんだよ」

「ふーん。」

なんてこと聞いたりしたもんです。

ニシンって喉に刺さりやすい柔らかい小骨が多いので子どもにとってはやっかいな魚で、あんなもので一攫千金と言われてもピンとこなかったし、「御殿」って言ってもでっかい番屋ですから、わりと地味、と思ったりしてました。

そんなゴールドラッシュみたいなヤン衆の夢も、ニシンが減るとともにオンボロロオンボロボロロですよ。

 

オンボロっていう言葉をこんな哀切なメロディに乗っけようと思うのもすごいし、違和感なく乗っかるのもすごいし、なかにし礼はとにかく偉大な人と思わないか、という話をしましたら、とんでもない事件が勃発してしまったのです。

 

「オンボロロは海猫の鳴き声に決まってるじゃないか」

と言い出す輩が出てくるではないですか。

もちろん私は北海道を代表して食ってかかります。

「何を言ってるんだ、これだから東京モンはちょっと文明進化してるからって自然の観察がまるで足りてない。オンボロロなんて鳴く海猫がどこにいる。海猫はミャーミャー鳴くもんだ。石狩浜行って出直してこい」

「オンボロじゃまるっきりギャグだろう。お前は本当に物をわかってない」

「だからそのギャグみたいな響きをここに入れたのが天才の所業って言ってるんじゃないかっ」

ということでオンボロ戦争勃発してしまいました。

どう考えても絶対に私が正しいが、正解は別に知りたくない。

 

ちなみにもうひとつ思い出した小噺。

『石狩挽歌』はさすがに私が生まれる前の流行歌ではあるんですが、母は時々口ずさんでおりました。

しかも「雪に埋もれた番屋の隅で わたしゃ夜通し飯を炊く」の歌詞を、「わたしゃ夜通し飯を食う」と歌ってたんです。

今回、改めて北原ミレイの歌をちゃんと聞いて

「あ、『飯を炊く』だったのか」

と気づいたのと同時に、誰からもツッコまれることのない渾身の替え歌ギャグを何十年も執拗に、ひとりで歌い続けていた母の孤独を思うと、私のハートもだいぶオンボロロ。

 

 

石狩挽歌/漁歌

石狩挽歌/漁歌

  • アーティスト:北原ミレイ
  • 発売日: 2004/01/21
  • メディア: CD