晴天の霹靂

びっくりしました

地球のねじが巻かれて初夏へ

数日前まではこんなじゃなかったように思うが、いきなり木々の新緑が血気盛んになり、今日という地上に繁茂していた。

新緑は、ちょっと目を離しているすきに一瞬で世界の様相を変える。

あれ、こんなだったかな。昨日はこんなじゃなかった気がするけどな。

などと思いながら歩いていたら、すぐ脇の梢から唐突にうぐいすが宣言するのが聞こえてきた。

「昨日までと今日からの季節は別なのである」

と、思うにうぐいすは言ったのだ。

目の前を歩いていた人が驚いてびくっとしたのち、梢のあたりを二度見したのが少しおもしろかった。

実際、場違いなほど少しきっぱりし過ぎたうぐいすだ。

 

去年プランターに植えた朝顔が枯れてパリパリになってから拾い集めた種を、今年も同じプランターに植えている。

水をやっても全然芽が出ず、隣のプランターから飛んできた猫草が一本だけ空き地の真ん中に生えてきたりするのを見ては

朝顔は諦めて、そのうち何か苗でも買おうか」

などと思いながら一応毎朝水をかけていた。

その沈黙のプランターから、目を凝らすと小さな小さな双葉が一本だけ出てきている。

この小さな双葉はまぎれもない、去年も見たあの朝顔だ。

小さな芽は猫がいたずらで噛みちぎってしまうから、気づかれないようにそしらぬふりをして水をやる。

これが育てば我が家の二年生の朝顔なわけで、こんなに素晴らしい家の歴史はない。

「猫にバレませんように。栄養が足りますように。立派に育ちますように」

そういえば去年も朝顔の発芽は忘れかけた頃に急に起こったサプライズだった。

猫草は種さえ撒けばなんとなくワッサワサと生えてくるが、朝顔は自分で記憶しているペースがあって、じっと時を待つのだ。

あんなに小さなカサカサした粒の中に、あらかじめタイムコードまで入っているとは革新的な技術ではないか。

水やり用のビーカーを持ったまま、私はベランダで猫に宣告する。

「猫よ、季節が動いているぞ」

初夏の始まるころはいつも、猫も人も機嫌が良い。