急に雷鳴が響き始め、空は曇り。
洗濯物は外には出していないものの、猫は怖がっているだろうから、急ぎ帰らんとするが、色々用事をしているうちにざーっと大粒の雨がやってきてしまう。
元気になった土左衛門くらいびしょ濡れになりながらびっくりしたことは、眼鏡がずいぶん快適であったことだ。
コンタクトレンズ派に転向したある年齢まで、ずっと眼鏡を使う日常の中で、運動だ、真冬の寒暖差だ、湯気のたつ食事だといちいちにいろんなストレスを感じていたが、大雨というのも嫌なものだった。
雨粒がレンズについてほとんど何も見えなくなるが、外すとそもそも見えないので結局かけて、やっぱり見えない。
「眼鏡用のワイパー欲しいよね」
というのは眼鏡を欠かせない人がよく言う軽口ではあるが、あながち冗談でもなく切実な話である。
それがあら不思議、これほどの雷雨の中に居るのにレンズが全部水滴を弾き、視界がまったく遮られていない。
「くもり止めジェルめっちゃ効いているっ!」
と、感動に打ち震えた瞬間である。
久しぶりに眼鏡生活をはじめた最近、マスクで眼鏡が曇るのが不快なのでコロナ生活ならではのグッズのつもり買ったものだ。
塗っても最初ちょっとは曇るが、使った方がストレスがだいぶ減るというので毎日塗るようにしていた。
温かい麺類を食べたりするときも、さほど曇らなくなるのは快適なので、毎朝ひと手間かけるだけの意義は十分あると思っていた。
だがそれどころではなく、この大雨の中を歩くときの快適さは劇的ではないか。
大人たるもの、周辺の人の気持ちを察して、そもそもあんまりずぶ濡れて公道を歩かないほうがいいものではあるが、それでも人生は何が起こるかわからない。
日々は危険に満ちているのだ。
「ああ、やっぱりこんなに効いてたんだ。毎日塗ろう。毎日」
と、決意を新たにし、雷嫌いの猫の待つ部屋へ、ずぶ濡れで帰ったものである。