『東京2020オリンピック SIDE:B』の話がしたりない。
好きか嫌いかは置いといて、いっぱい語ることがある映画って、やっぱりある種の「いい映画」ではあると思います。
少なくても「どうでもいい映画」は作らない、ってやっぱり作家性のある人ならではあるまいか。
rokusuke7korobi.hatenablog.com
前回書いた「バッハ会長、デモ隊を威圧に行く」のシーンの他に、もうひとつ劇中白眉と言っていいシーンは、「野村萬斎制作チームから追い落とされ会見」のシーンでした。
顔面圧VS顔面圧の半沢直樹演出で、こんなシーンがドキュメンタリーで撮れてしまうなんて、やっぱり只者の所業ではない。
方や、感情を隠すも調整しながら出すのもプロ中のプロ、しかも基本的にいつも涼やかな顔立ちでおなじみの野村萬斎さん。
方や、ひと目見て「え、広告業界ってこんなところ?」ってびっくりしたくらいの悪人面でおなじみの佐々木宏氏(すいません)。
この二人が並んでの開閉会式制作チーム交代の記者会見が、本当にたまらない名場面でした。
表面上の儀礼は申し分なく保ちつつ、要所要所でお気持ちのにじむ眼差しを(明らかに意図的に)送る野村萬斎。
満足感でマスク越しにもわかるくらい悪人面に拍車がかかってしまっている浮かれ気味の佐々木氏。
と思うと、あれはもう本当にゾクゾクするシーンでした。
絶対、河瀨直美監督の生霊を野村萬斎の眼力に託している。
(大きい会社の末端にはちゃんとした人もたくさん居ることは知っています。関係者の方ごめんなさい)
あの胸熱シーンをもう一回見たいと思ってYou Tubeで件の会見を探しても、普通のニュース動画でみると、いまひとつピンと来ないのです。
野村萬斎が「大人の対応」に徹しているように見えるぶんだけ、いったい何の会見なんだか、意味がぜんぜんわからない。
実際、思い起こしてもこの会見を見た当時は、一切意味がわからなかったものです。
なんでコロナだと開閉会式制作チームが交代になるのか?
あれほどシビれる軽蔑の眼差しを誰に反感持たれるでもなくしっかりカメラの前で披露して、最終的には佐々木氏も退陣に追い込まれたことまで含めて公式記録としてずっと残り続けるのだと思うと、ある意味「萬斎勝利」のシーンにも見えます。
しかし具体的にはどうして佐々木氏も降板せざるを得なかったのかまで触れていないことを考えれば、2022年に見ればわかるこんなにおもしろいシーンも、10年、20年経てばだんだんわからなくなってしまうということでもあります。
そこはもうちょっと、踏み込めなかったのだろうか。
これだとただ「野村萬斎の眼力すげー」と「佐々木宏の顔力すげー」と「電通が絡むとろくなことにならないー」という野次馬の感想で一瞬気持ちよくなって終わり、となりかねないのだけど、本当はここにもっとたくさんの残すべきことがあるんじゃないか。
オリンピックを単なる利権とヘゲモニー争いの場として腐らせてしまった原因はどこにあったのか。
面白い、面白いけど非常に惜しい。
しかし半沢直樹好きの人にはSIDE:Bは十分おすすめすぎる。