ギレルモ・デル・トロによる映画化が現在公開中なので、それを見にいかんがために、とりあえず読み始めた原作小説『ナイトメア・アリー』。
これがまあ予想をはるかに超えたおもしろに大満足してしまったあまり映画のほうは「配信待ちでもいいかな」くらいの気分にうっかりなってきてしまっている珍しいパターン。
好きな要素いっぱい。
「見世物小屋モノ」っていうのがまずは問答無用に心を引き付けるものがあって、なんでかって言えば、見世物小屋というのがプリミティブに人の心を惹きつけるものを集めて構成されているからですね。
人が好きなものを集めてるから、人はそれが好きなのです。
スタントンっていう家出少年が移動式見世物小屋に潜り込みます。
マジックと読心術を身につけてみたら意外に才能があって、仕掛ければ仕掛けるほどどんどん成功していく。
小説には舞台裏の仕込みから書かれているので、読んでていても
「そんなベタな手口にまともな人がひっかかるわけないだろう」
くらいのことは思うんですが、資産家も著名人もコロコロと引っかかっていって不思議なくらいスタントン少年、大成功するわけですね。
美貌と野心だけを頼りに徒手空拳でここまでのし上がっただけで立派なもんなのだから、あとは人生オートパイロットで悠々生きていけばいいんじゃない、なんてこっちが思い始めたあたりで、どうしたわけか絵に描いたような愚かしいつまずき方をする。
「おー、メンタリストDaigoではないの」
と思いながら読んだものです。
人生には悪魔小路みたいなところにすーっと引き込まれていく瞬間がいっぱいあるのだ。
マジックやら、占いやら、降霊術やら読心術やらありとあらゆる魅力的ないかがわしいものがてんこ盛りに入っていて、ほんとに見世物小屋の世界に迷い込んだみたいに読んでて楽しいのです。
小説は22章あり、それぞれにタロットカードにちなんだ章タイトルがつけられています。
「愚者」からはじまって「魔術師」、「女教皇」というふうに続いていって最後の章は「吊るされた男」で終わる。
タロットの好きな人は、あの象徴的なカードを並べて臨機応変に物語を考える癖があると思うので、この小説はそういう意味でも圧倒的な才能を感じられて面白い。
若者のころは人生って独創的なんだと思ってるもんだけど、実際は世界最古のカードで語り尽くされてる程度にティピカルなことしか起こらない。
その悪夢感と、だからこその魅力ってもんがあります。
なぜ人は誰も彼も、あんなに反感持ってた親にしょうもなく似てくるのか。とほほ。
ずっとカルト小説の扱いで日本語訳は出ていなかったのに映画化が決まってからいっぺんに2バージョン出てしまった、というのも面白いですね。
なんだ、みんな大好きなんじゃん!
そんなこんなでせっかく2パターン出たので、今2つとも読んでる。面白すぎる。
早々に見に行くつもりだったがまだ見ていない映画版。