出来心でガストーチを買ったところ、これがなかなか面白いという話です。
わりと最近一人暮らしになった父がある日
「もうこんなにたくさんいらないから」
と言ってカセットボンベのストックをくれるという人生の黄昏らしい一幕がちょっと前にありました。
娘としては
「私も熟女だからそんなにいらないよ」
などと断っている場合ではないし、受け取った以上使っていかねば邪魔でもあるし。
かくなるうえは、兼ねてからちょっとおもしろそうだと思っていたトーチを買ってみるしかない、というのがこの話しの前段なんでした。
さて、うちの近くのスーパーは鮮魚コーナーに強い系列の店で、魚が豊富で美味しいのです。
貧乏舌で、トラウトサーモンとか、本マグロではないほにゃららマグロの類でも大変おいしくいただけるため、サクの一番小さいのを探せば300円くらいでいつも十分な量の刺し身が食べられて大満足という環境です。
これら「あまり気を使わずに食べられる安い刺し身」を、食べる直前にゴーッと炙ってみました。
当然「美味しいだろうな」と思ったから試しているわけですが、結果はその予想を超えてだいぶ美味しい。
この寒い時期は脂の乗った魚が多いので特に美味しいと思われるのです。
安くない刺し身にも当てはまる法則なのかどうかは検証する予定はありませんが、確実に刺し身を食べる回数が増えています。
一方、私の珍なるマイブームのひとつに「やたらプリンを作る」というものがあります。
卵液を「ちょうどここ!」と思った硬さにぴったり固める、という作業が何度やっても味わい深く、理想を追求のためにプリンづくりが止まらない今日このごろ。
ところが、プリンを作るのは楽しいのですが、カラメルソースがいつまでたっても思い通り作れるようになりませんでした。
北海道には「侍のプリン」という、本気で真っ黒に焦がしたカラメルソースをかけたプリンを売っている店があり、私が作りたいのはこれなのです。
しかし侍プリンのごとき「苦い」と「甘い」が同時に舌の上にやって来るカラメルを作ろうとすると、ガスと鍋で作っても、電子レンジを使ってみても、どうしてもべっこうあめが出来上がってしまいます。
侍プリンがこの世に販売されている以上はなんらかの方法を使えば可能には違いないが、家庭の台所であれほどまでカラメルを焦がすにはどうやったらいいのだろうか。
ここで思い起こすのがクリームブリュレです。
プリンを作って、砂糖をまぶし、上からトーチで焦がせば、あの「アメリ」がスプーンの背でカチカチ叩いていたおなじみのクリームブリュレができます。
そしてクリームブリュレのカチカチは、時間がたつと溶けてしまうというではないですか。
っていうことは、「まっ黒焦げのクリームブリュレを作って時間をおけば、まっ黒焦げのカラメルソースになるっていう理屈なんじゃないか?」
と、思いついたのが私の偉いところです。
やってみると、まんまとドン引きするほど黒いカラメルソースが完成。
おまけに「プリンも余計おいしくなる」という現象もついてきました。
たぶん、一度はカチカチになったカラメルが液状化するのは浸透圧差でプリンから水分を吸い上げて溶けるせいであり、プリンのほうでは水分が抜ける分味が濃くなってる、と推測した次第。
おまけに普通にカラメルソースを作るよりだいぶ簡単でもありますし、以後、プリンはずっとこの方法で作ろうという結論に至りました。
カセットコンロを出してきて鍋やら何やらやるのはちょっと億劫ですが、トーチは気軽につかえて、カセットコンロにはできないあれこれができたりするので、一人の食卓にも意外にあると楽しいということを発見したのでありました。