晴天の霹靂

びっくりしました

呪術廻戦毛糸屋編

近所のショッピングモールに入っている小さな店では手に入らない毛糸を買いに、ちょっと足を伸ばして大きな手芸店へ行ってきた。

 

そこは私が子供の頃からある老舗の「布地屋さん」で、地下の暗くて寒いところにたくさん布ばかり並んでいる、子供には何が楽しいのかピンと来ない場所だった。

それが、しばらく行かぬ間に移転して四階建てのビルになっていたには驚いた。

なんとなく、現代風にハンズっぽい店になってるに違いない、と思いながら入ってみると、ちゃんと昔の面影を残して頑固に古臭い。

駅前一等地の資本主義激戦区において派手さと商売気をほとんど感じさせない店構えである。

欲望をかきたてるためだけに演出される賑やかしの装置のひとつもなく、ただただ愚直に布地やら糸やらパーツやらが並んでいる、意味を持ちうる人にとってしか意味のない愛想のない空間だ。

 

ああ、いいねえ。いいねえ、すごくいい店だねえ。

と思いながら毛糸のコーナーを探してうろうろする。

店内には結構多くの人がいて、しかも皆かわいい。

インスタ映え的に、骨格バランス的に、流行的にかわいいということではなくて、頭の中になんらかのイメージを持ってここに集い、ここから何かを持ち帰って部屋にこもって、イメージの具現化するのにしばらくの時間を裂こうとしている人たちであると思うと、その人の持っている内的世界が染み出して見えるようでかわいい。

でっかいリュックを背負った学生さんも、おじさんも、おばあさんも、みんなかわいく見える。

 

細くて丈夫な毛糸を二色買った。

しばらく前から帽子を編んでいるのだが、編んでるうちにずいぶんとご陽気な気分になってきて

「せっかくだからもっと派手な帽子にしちゃえ」

という気になったのだ。

その代わり帽子に使うつもりだった毛糸の方は手袋にしようと、技術が追いつくかどうかわからない五本指手袋のちょっと複雑な編み図をもらってきた。

「この色とこの色でどうかな」

と思って毛糸玉を手に持って二色並べて見る。

たぶん、私のまわりにも内的世界がじわじわと出ていたろう。

今さら派手めの帽子をかぶろうなんて、この冬編み針を持つまで全然思わなかった。

 

正月に編み物と交互でずっと読んでいた『呪術廻戦』では、戦闘漫画(っていう言い方であってるんだろうか)なのに魂の話がたくさん出てくるのが意外な気がして興味深かった。

主人公の虎杖君には人の外見に惑わされず、内面の姿を見る力がどうやらあるっぽい(8巻の同級生小沢さんのエピソードは秀逸だと思う)。

人には内的世界ってもんがあるよなあとは私も思うのだが、何よりもまず視覚情報が先に立つ人類において、外見より鮮明に内的に人を捉える力ってどういうイメージのもんかなあ、なんてことをぼんやり考えていたのだ。

そんなこんなしてたら、意外にも大きな手芸店で外見など霞むくらいのレベルで楽しそうに遊んでる魂っぽいものをいっぱい見たので

「おお、これかこれか。呪術廻戦」

と思ったわけ。