晴天の霹靂

びっくりしました

『オリンピック・マネー』 ~観ても読んでも興味深い東京五輪

五輪やってますね。

配信サイトを開いたときに何らかの競技のライブ中継をやっていれば、一応どんな感じなのか再生してみる、くらいは楽しんでおります。

個人的に今回の流れでのオリンピック開催に釈然としないことと、一流アスリートの競技が見られる祭りは「見れば面白い」ことは別腹です。

 

昨日、パッと配信画面を開いたら水泳をやっていて、あんまり映像がキレイだったのに驚いたもんです。

高性能のカメラで撮ってるから肌にまつわりつく水がジェルみたいに見える様子が素晴らしいので、もはやアスリートでなく水を応援する姿勢。

どこの国でもいいから水頑張れ。

あと、カメラマンがゴールした選手に寄るときに、助手の人がついてきて落ちないように後ろからズボンを引っ張るシーンも好きです。

超高画質映像の舞台裏、めちゃめちゃアナログだな。ズボン引っ張るって。

 

とはいえ、「感動をありがとうとか言っておけばそれ以前のプロセスはうやむやにできる」と思われてる手法にうっかり乗るわけにもいかないので、競技を見るのと並行して五輪関係の本を色々読んでおります。

「今進行してるあの祭りのことだ!」という臨場感を持ってよむと本当に面白い。

 こういう機会でもないと知り得ないことがたくさん書いてあるのだけど、なかでも国立競技場新設のために取り壊した低所得者向け住宅「都営霞が丘アパート」についてのくだりは、なかなかに他人事ではない衝撃を受けます。

 

90代の母親を介護しながら暮らしている60代女性が、立ち退き要請に対し、現行の介護サービスの継続が可能な移転先を希望して拒否され、そのまま住み続けます。

すると、それまで使用していたアパートへの侵入路を変更して、かわりに目視で30度近くある急角度のスロープをつけるという「地上げ」行為を都がはじめた、という話。

誰かの身体の不自由なことを利用して公権力が人を黙らせた場所でパラリンピックなどが行われるということを知ると、この手の体質には薄々気づいてはいたけれど恐ろしい。

  

 

またひと味違う観点からじんわり楽しいのがJOC前会長森喜朗氏の著作。

森さんは言うことも面白いけど書くことも面白く、名文句がいっぱいです。

 

率直な心境を記せば、私は今、二つの死の恐怖と闘っているようなものです。一つはガンであり、一つは小池都知事の刃です。

……それは大変そうだよね、ほんとにね。こういう文章好きよ。

 

一冊読むといかに小池都知事犬猿の仲なのかがよくわかるようにはなってるのだけど、面白かったのは「五輪予算削減」を掲げて知事選を勝利した小池都知事が、JOCの予算を監査したいと言ってきたのを断る理由です。

 

「あなたが、選挙で公約に訴えた都政改革をやるのは結構です。大いにやってください。しかし、そのことでオリンピックを改革するとか何とか、よけいなことは言わないでください。オリンピックは我々がきちんと準備をしてきており、そのために東京都の職員もここに入っているのです。それに、我々は東京都を代行しているのです。東京都の附属機関か何かのように考えて、監査するなどと失礼なことを言ってはいけません。何の権限を持って監査するというのですか」

 

すーっと読み飛ばすと都知事が「あなた貯金いくらあるの?通帳見せて」とでも言ってきたかのように書いてあるので、一瞬、本当に失礼なこと言われたのかな、と信じそうになる確信に満ちた口調。

こういう個性が「実行力」だった時代もあるんだろうな、というのはわからぬでもないのですよね。

 

この直後の文では「ここは公益財団法人で、内閣府が認可をしています。東京都が認可をしたわけではない」とも書いてあるのですが、後に内閣から丸川珠代五輪担当大臣が行ったときも「見せてもらえない」って言っておりましたね。

mainichi.jp

このときは「失礼だから」じゃなくて「守秘義務だから」というふうに理由がちょっと変わってるのも面白い。 

守秘義務」って言った者勝ちなのかな?

 

そもそも私は政財官界から「ほかに引き受ける人がいないから」と頼まれて組織委員会の会長を引き受けたが、自分を育んでくれたラグビーをはじめスポーツへの恩返しや、若者の未来に夢を与えるためである。組織委から報酬は得ていないし、公用車も使用していない。永年、政治家として築いた内外、各界との人脈を活かして調整役になり、日本国に最後のご奉仕をしようという全くのボランティアである。

 

『オリンピック・マネー』に詳細に書かれている内容によれば、新国立競技場建設を口実に高さ規制、景観規制を取り払えば、最後の開発地と言われる神宮外苑周辺の再開発が可能になる。

誰からも監査されない予算を上限なしで使いながら、一等地の再開発に絶対的権力をもてるとあらば、無報酬、手弁当でも他に引き受ける人はいくらでも居るような気がします。

それでも口調がいいからうっかり読んでると「そうなのかな?いい人だな!」っていう気になってくるのが面白い本なのです。

 

 

 

都営霞ヶ丘アパートについては映画にもなっている。この機会にNetflixあたりで配信してもらえたら見たいのだけどな。


www.youtube.com