晴天の霹靂

びっくりしました

『竹中平蔵 市場と権力』 ~スターウォーズが倍楽しくなる一冊

なぜ今それなのか、と言われても思い出さないのだが『スターウォーズ』シリーズ(ジョージ・ルーカス時代)を見直している。

「色々言っても、わたしは戦争もSFもでっかい宇宙船も、そんなに興味ある方ではないけどね」

と今までは思ってきていたものだが、久しぶりに見直すとこれが面白くてあっという間に6本見てしまった。

 

今回のおもしろポイントは、意外にも読書体験との混線なのだ。

たまたま、Kindleセールのときに安さにひかれて買ってあったらしい『竹中平蔵 市場と権力 「改革」に憑かれた経済学者の肖像』を読んでいた。

 これがまあ面白くて、ページをめくる手が止まらない。

読んでいて「いやいや、そんな個人の普通の悪巧みが衆人環視のところですーっと通るハズないからw」という気持ちになるんだけど、どうやらやってみるとできるものらしいのが、他愛なくっておもしろい。

私も平蔵さんのお友達になってかんぽの宿を95%引きで売ってもらいたかったな、などと思っているうちにグイグイ読めてしまう。

 

この本を読み、続いてスターウォーズをシリーズで見、というのを交互に続けていくと、メキメキと、シス卿が平蔵さんに見えてくるんである。

平蔵=シス史観で見ていくと物事がちゃんと自分の思ったとおりに進んでいて、実に気持ちがいい世界観だ。

 

仕事ができるのでトントントンと出世していき、偉い人のそばでニコニコしながら機会をうかがい、弁が立つのを利用して自分の思う方に世論を誘導する。

自分に都合がいいか悪いかだけで物事を判断できるので常に決断が早く、お行儀よく戦おうとしてる人は絶対にかなわないようになっている。

平蔵卿の評伝を読んでいても

「いやいや、民主的な社会にはチェック機能とかあるし、まさか物事こうはならんでしょうよ」

という気持ちになるのだが、追い打ちでスターウォーズをシス評伝として見てると

「……あ、こういうことってわりと容易に起こるんだよな」

と、虚実の感覚が完全に逆転しつつ納得する。

フィクションの力の偉大さよ。

 

また面白いのがアマゾンの竹中平蔵卿の著者ページを見ると膨大な著作の中に『この制御不能な時代を生き抜く経済学 』とか『結果を出すリーダーはどこが違うのか』などのタイトルが並んでるところだ。

エピソード3でアナキンをダークサイドにスカウトするシーンの口説き文句にそっくりじゃないかっ。

ジェダイにくすぶっていても愛する人は守れんよ。ふっふっふっ」

っというやつで、立場が弱くて心に迷いがある若者の心を狙う権力者って、だいたい同じ感じで声を掛けてくるものらしいと観察できる。

 

 

『市場と権力』の中でに雑誌「エコノミスト」で平蔵卿と京都大学佐和隆光氏の対談において経済学者の「世代論」について論じたくだりに触れている。 

佐和 は、 経済 学者 が ある 学説 に 与する 場合、 学説 の 根っこ に ある 思想 や 価値観 を 含め て 接する ので なけれ ば おかしい のでは ない かと 問題 提起 し て いる。 近代経済学 は 特定 の 思想 や イデオロギー を 直接的 に 表現 する もの では ない が、 経済 研究 の 背後 には 必ず 依っ て 立つ 思想 が ある という 考え で ある。   アメリカ では、 反 ケインズ の 潮流 の なか で マネタリズム や サプライ サイド 経済学 が 生まれ て き た。 経済学 の 変貌 は「 反 ケインズ」 学派 の 台頭 に 終わら なかっ た。 高度 に 洗練 さ れ て 合理主義 的、 実証主義 的 な 性格 が 極まっ て くる と、 経済学 が 単なる テクノロジー と 化し て き た ので ある。   ジェフリー・サックス や ローレンス・サマーズ の 世代 に なる と、 土台 に ある 思想 構造 には 必ずしも 関心 を 示さ ず、「 単なる テクノロジー として 経済学 を 操る」 傾向 が ある と、 佐和 は 指摘 し て いる の だ。

 (Kindle の位置No.1289-1297). 講談社. Kindle 版.

 

  竹中 は、 あくまで 政策 に 関与 する ため の 手段 として 経済学 を とらえ て いる。 もっと いえ ば、 政治権力 に 接近 する ため の 道具 として とらえ て いる よう に 見える。

 (Kindle の位置No.1308-1310). 講談社. Kindle 版.

 

こんなふうに書かれるとまた、「経済学」がめちゃめちゃフォースっぽい。

なんらかのビジョンを示すものとしても使えるし、単に権力としても使える。

調和を気にしたり思想やイデオロギーに気を配ってるより、手段として倫理観から切り離して使うフォースのほうが「早く」て「強い」から、シスの悪巧みって何回観ても結局うまくいくのか、ということでたいへんに腑に落ちるところだ。

 

 

以前『女帝 小池百合子』を読みながら『ゲーム・オブ・スローンズ』を観たときも

「出た、全員小池百合子の世界!」

と思って妙な興奮があったが

今度は「竹中平蔵の悪巧みがうまくいく世界としてのスターウォーズ鑑賞」である。

今までとは全然違うタイプのおもしろさだった。

 政治家の評伝ってこれまであまり読んでこなかった分野なのだけど、読みながら緻密に作られた政治的要素の強いフィクションを並行して見ると、どっちの世界観もよりビビッドになってすごく楽しめる。

なかなかいいエンタテインメントの鉱脈を見つけてしまったのかもしれないと思う今日このごろ。