晴天の霹靂

びっくりしました

ドラマ『POSE』 ~私の世界を見下すんじゃねえ

ネットフリックスで『POSE』を観ております。

鼻血出るほど面白い。


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ボールルームという80年代のニューヨークにあったシーンが主たる舞台。

ディスコっぽい場所で主にトランス女性たちによって行われていたファッションショーとダンスコンテストが合体したようなカルチャーのようです(全然知らなかった)

そこを取り巻く人達の結束やらHIVやら恋愛やら青春やら人種差別やらLGBT差別やら格差やら情熱やら絶望やらトランプタワーやら、全部入りでド派手に話が進んでいきます。

 

かっこいいファッションと音楽とダンスに紛れてグリグリと胸を締め付けてくるのは、人種やジェンダーの話にとどまらず、無限に人の心に張り巡らされているアンコンシャス・バイアス、無意識の差別を常にえぐり出しながら話がすすむこと。

 

どうにも説明が長くなってしまうのだけど、たとえば我が事として胸に刺さるアンコンシャス・バイアスのこんなワンシーンがあります。

 

ボールを取り巻く文化には「ハウス」という習慣があって、マザーと呼ばれる界隈の実力者のところに若者たちが身をよせて共同生活しながらチームでボールでの名誉を競っています(ようするに家や仕事や身寄りのない人が多いので相互扶助のシステムがないと生き抜けない)

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家を追い出されて公園で寝泊まりしていたデイモン君と声を掛けるマザー

ブランカという新米のマザーは公園でホームレス状態だったゲイの少年デイモンのダンスの才能を見抜いて自分のハウスに引取り、強引な直談判の末、名門ダンススクールにねじ込みます。

 

奇跡的に名門スクールに入ることができ、ホームレス生活から一転、将来のために大きなチャンスを手にしたデイモン君。

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怖じ気づくデイモン君を連れてダンススクールに直談判に行くマザー

ところが恋愛やらボールの練習やら色々あってレッスンに遅刻などするのです。

「ちょっと浮かれてるんじゃないか」

ということで校長から保護者であるマザーが呼び出されます。そのくだり。

 

最初、校長とマザーはデイモンは若くてバカだからちょっとシメてやらねばならぬ、ということで話は噛み合っているのです。

その話の途中、校長がいいます。

「足を引っ張ってるのはあなたたちのボールです」

「ダンスは仕事なんです。トロフィーのために着飾るようなお遊びとは違う」

What we do here is work,
not the instant gratification that comes from dressing up
and walking for a trophy.

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ダンススクールの校長

それに対してマザーが突然切れます。

「宝石や銀を身に着けていいご身分ね。
デイモンの話はさておき私の世界を見下さないで。
私がボールにどれだけの労力を注いでいると?」

Miss Uptown Fancy with your African jewels
and your sterling silver.
We can talk about Damon,but what we're not gonna do
is sit here and look down our noses at my world.
You have any idea the work and struggle
that goes into walking a category?

 

日本語字幕より言ってることはだいぶ口が悪いみたいにみえるんですが

「私達がやってるのは仕事だし闘争なんだ(work and struggle)高い宝石ジャラジャラつけた山の手婦人にわかるわけないんだから黙ってろ」という感じか。

 

どれだけの心の拠り所となっている自己表現でも金にならなければ「遊び」であり「優先順位下げるべきもの」であり「見下されてやむなし」というバイアスって、自分の心の中を見渡しても深く巣食っている価値観なので胸が痛いところです。

でも表現を換金するための専門的な訓練を受けたり、場を育てたりするには結局金がいるので、生活のために換金できるかどうかと表現の優劣ってどうやら相関関係ではないな、ってことはわりと直感的にわかっちゃいるんですよね。

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ボールで競うのは名誉とトロフィーだけ

 

世界の終わりより資本主義の終わりを想像するほうが難しい、とかいわれるこの時代に「金にならないものは地位が低い」と言われて「あ、ほんとそうですよね、すいませんでした、あなたの邪魔にならないように気をつけます」という態度にならずに居るのって困難なことです。

「私の世界を見下さないで」

と即座に反発できる勇気は見てると元気がでてくる。

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「宝石や銀を身に着けていいご身分ね」

 またこのくだりがすごかったのは、言い返された校長がこの点に関しては黙って、言い返さないのです。

ふつうは、無意識の差別を指摘された時って、むしろいきなり差別主義者扱いされたことに傷ついて条件反射で反撃してしまいがちです。

「いいや、違う。私はあなたを見下していない。なぜなら」

と言って、まったく同じ内容の差別的な主張をよりまわりくどい言葉で頭から繰り返す、という態度は最もよく見かけるものですが、このシーンはそういう展開にならなかった点でも印象が強いものでした。

アフリカンルーツの校長もまた語らずにいる無意識の差別との無限の格闘があったのであろうかと思ったりもします。

連帯しながら喧嘩する、ってこのドラマではすごくあちこちに見受けられる人間模様です。

  

 まあ、とにかく超面白い!