着々と日が長くなり、昨日まで何もなかったところに植物が芽吹く。
日ごとに生命に刮目する季節がやってくる。
そもそもおかしいと思うのだ。
冬の間は空気も灰色かったし、雪の下からやっと出てきたぬかるみは黒っぽい茶色だし、雪解けの水だって泥の色だ。
そういう地味な色の粒子をいくら混ぜあわせたって鮮やかな色などできっこないのに、花はある日突然、そういうよどんだ色の中に突如として不自然な彩度を持って出てくる。
どこから来るのか、この緑は。紫は。黄色は。白は。
唐突な色彩に驚きつつ4月の風の中をウロウロしていたら『百年の孤独』を読みたくなった。
最初に読んだときは、登場人物が全員同じ名前であることに目がくらみ、傍らで家系図を作りながら読むのに労力を割いてしまったために、読書してるんだか知らない人の身元を調べてるんだか、なんだかわからない時間になってしまった記憶がある(おもしろかったけど)。
それでも一度読むと「誰が誰でも別にいい」ということがだいたい把握できてるので、二度目からは、ただやたら誇張と驚きに溢れた世界を好き勝手に泳ぐように読むことができる。
世界は未知の驚きで満ち溢れてるようにも見えるし、全部の生命が最初からプログラムされてることをただ唯々諾々とやっていって、誰も彼も大差なしに寂しく死んでいくようにも見える。百年なんて、長いけどすぐだ。
現実がそもそも魔術的であるこの季節に読むと、死に向かう生命力の中で活字がピチピチと飛び跳ねるように身に染みる。
コンゴウインコの青い肉、腸を駆けめぐる風。
たしかめようもないが、私が気づいてないだけで、世界は本当にそんなふうなのかもしれない。