晴天の霹靂

びっくりしました

春はあけぼの、ようよう猫になりゆく。

空が白むとうれしくなってやけに起こしに来るのは多くの猫に共通する習わしだと思うが、春の気配に誘われて我が家の猫も朝から粘り強くどうかしている。

 

夜というにはやや明るい気はするが社会通念上これを朝とは呼ばないであろうくらいの時刻、布団の周りをぐるぐる巡る気配にまだ怠けたいまぶたが開く。
朝まだき元気なのは百歩譲って仕方ないとして、あの生き物はなぜ布団の周りをかくも熱心に回るのか。
思い詰めた足取りで回り回っている黒猫を夢うつつの中に見れば、
「これはきっとなんらかの呪いをかけているに違いない」
という風にしきりに思われるのだし、では果たして何の呪いかと言えば「猫になれ」という企てであることに疑念の余地はない。

 

だから、なのだ。
朝目が覚めて顔を合わせるとやつは必ずや全力で鳴く。
「にゃー、にゃー。ゔに゛やああああ」
長く呼ばわるその声は、「おはよう」などでは決してなく、
「まだ猫になってないのか。また失敗したっ!」
という痛恨の悲鳴に違いなく、満足に毛も生えず、尻尾も生じてこない飼い主としては非常にバツの悪い気持ちにさせられる。

 

おはよう、まだ人間だけど今日も仲良くしてくれるか。

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黒猫のぐるぐる回る春暁か