どういうわけか、りんごを買っても買っても、身の柔らかいものにばかり当たる。
今年はたまたまそういう気候条件の年なのだろうか。
味や香りはもちろんちゃんと美味しいのだけれども、願わくばまるかじりした瞬間に全力で歯向かってくるような小生意気なりんごと日々の真剣勝負をしていたい。
寒い家の中でこたつにあたりながら、りんごを噛みしめる、白い果肉に刻まれた新しい歯型越しに窓ガラスがあって、その向こうに雪が舞っていて、そのまた向こうに青灰色の空がある。
自分の頭蓋骨を伝って軽快に粉砕されていくりんごのリズムに耳を澄ましながら雪を見るのが、私のよく知る冬ってものである。
外出から帰ってきてニュースを見たら、住んでいる地域の感染症警戒ステージがまたあがっていた。
そうかそうか。それもこれも、この気候の連れてきたものならば、仕方ないということか。
いつもの店と違うところで試しに買ってみたずいぶん大ぶりのフジりんごをかじれば、これもやっぱり少し身が柔らかい。
「そうかそうか、そういうものか」
果肉についた歯型を見つめる、2020年冬である。