晴天の霹靂

びっくりしました

薄や花火や名月や

お月見の季節というのでスーパーの花売り場にも、ススキや鬼灯やリンドウの花束が出まわる。

ススキは地味だけどやっぱりずいぶん日本人の季節感に訴えかけるもので、嬉しくてついつい買って帰ってしまった。

すらっとした曲線越しに秋の月のことなど考えていれば、実に素っ頓狂なことに遠くで打ち上げ花火の音がなる。

またかっ、と思ってベランダから覗くと背の高いマンションの影にちょっと遮られつつ、紛れもない花火が上がっていた。

近頃、ちょいちょい半端な量の花火が上がるのだ。

 

ずっと懇意にしている、耳も口も本人も年増の美人美容師が言うには、今年は軒並み花火大会が中止になったせいで大量の花火が余っており、かといって来年までは保存もしておけないので「とにかく隙あらば花火を上げているようだ」と言うのである。

そこらの運動会とか町内会レベルの祭りでも場違いなレベルの花火をちょいちょい上げている模様、とのこと。

真偽がまったくもってわからない情報筋で、今時珍しいほど正々堂々とした単なるうわさ話、世間話、無駄話で楽しい。

 

それにしてももう少し高く上がるのをやってくれれば、せめてベランダからは気が付き次第に鑑賞しようものを、いかにも中途半端なので見切れてしまうのが残念だ。

そんなことを思いながらふと振り返れば、我が家より背の高い、高級マンションのあちこちのカーテンがさっと開いていくつも頭が出てきた。

中にはスマホを掲げて動画を撮影してるらしき人影もある。

あちらは、うちより高層なのでそこそこのアングルで見えているのであろう。

カーテンが開いているので、灯りのついた室内になんとなく広々とお金持ちっぽい雰囲気が出ているのも感じ取れてちょっと楽しい。

逆側を見てるほうが花火より楽しいな、などと思っていたら中途半端な打ち上げはあっと言う間に終わってしまった。

 

「いやあ、せっかくのススキ越しに妙なものを見たけどこれはこれでちょっと面白かったか」

などと考えていたら肝心の中秋の名月のことをすっかり忘れていた。

月は静かなものだから、花火とのダブルブッキングはさすがに気の毒だ。

 

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花火見る猫のひとみに名月が