晴天の霹靂

びっくりしました

鮭、遡上待ちの面々2020

鮭の遡上の様子を観察しに豊平川へ行ってみる。

今まで意識してみたこともなかったが、200万人都市に鮭が遡上するというのは極めてまれなことなのだという。

たしかに改めて見ると、よくもこんな幹線道路の真下の川で産卵する気になるなあ、と思うような環境ではある。

それでも川岸に下りれば、水は秋の澄んだ空気の中でキラキラと輝き、やっぱり水辺はいいもんだね、と思わせるに十分な風景なのだ。

こんな街中でも故郷と思えば帰ってきてしまうものかもしれない。

 

苦労してきた鮭たちのために支流の底をさらって環境を整えた保護水域をたんねんに見て歩くが、まだ姿は見えない。

聞けば、雨で川が増水した後などにたくさん上ってくるそうだ。

なんとなく、最初の一匹が来てしまえば、あとは全員を引き連れて鳩バスみたいな感じで押すな押すなと上がってくるような気がしていたが、そんなわけないか。

 

魚影のない川底を覗き込んでいたら、ふと視界の端、本流の方にまっ白いカモメの姿が一羽ある。

そんなところで何をしてるのか、冷たそうな水流に足を突っ込んでただ黙って光る水面を見て突っ立っている。

「川なのになんでカモメがいるんだ」

と、一瞬思ってから訂正する。

カモメは淡水の水辺にもたくさん居るものだ、そして夏の海で見かけるのはほとんどが海猫。

海水浴場で見る鳥をカモメだと思い込んでいる私が間違っていて、川べりに佇んでいる彼の方が正しい。

そんなことを、たしかチェーホフの『かもめ』を読んだときに調べた気がする。

 

産卵用の支流を上流から下流まで全部見て戻ってきてみても、彼はまだそこで真っ白に光って立っていた。

「何してるんだろうか」

まさか、まさか私と同じで鮭が帰ってくるのを待ってるわけではあるまい。

……え、待ってるの?今から?

「たぶん、いっぱい遡上してくるのは10月に入ってからだと思うよ。雨の後がいいんだってさ」

伝えてやりたいが、いやいや、向こうの方がその辺の事情は詳しいはずだ。

 

鳥の世界にも呑気なのがいる。

この川が『半沢直樹』だったら、ああいう見通しが甘くて計画性に乏しい生き方は「できない奴」として冷や飯食って当たり前っていう役回りのところだ。

「気の利かなさそうなやつがいる風景って、良いもんだけどねえ」

そんなことを考えて眺めていたら、すいすいと泳いで川をのぼっていった。

ついに諦めたか。

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鮭を待つ川面にかもめのひとりきり

 

 

 

かもめ (集英社文庫)

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