私の立てた作戦は、ロードマップの把握と早めの根回しである。
落ちる方も送る方も、忙しいのだ。
人間は死後四十九日で行く先が決定するが「猫ちゃんはもうちょっと長く身近なところにいます」と、我が家の大事な虎猫を葬送してくれたヤマグチは言った。
考えてみれば、飼い主のひいき目で見てどれだけ心根の良い猫であっても、仏教界では「畜生」であり、つまり前世での業績評価がいまいちだったので人間より位が低いとされた魂である。
となれば、行く先はいわゆる地獄なのかもしれないが、別にいじめられるわけでさえなければ、広々してるだろうし、遊び相手もたくさんいて面白いに違いない。
多少の外聞などは、構うことあるまい。
好物の鰹節ミニパックをお供えする。
マジックで「たくさんあるから足りなくなったら取りにおいで」としたためる。
文字を覚えていない可能性が高いので裏面には似顔絵も書き添え、ちゃんと気がつくようにと線香をともす。
自分宛のメッセージだという事さえわかれば、誰か文字の得意な人を見つけて読んでもらうことくらいできるだろう。
たっぷり鰹節などもっていれば「あいつは良い猫だったから大事にされているのだろう」なぞと、ちょっした箔もつくに違いない。
みんなにもたくさん分けて、道中もいろんな人から愛されるように気をつけなさい。
近所の神社に、順繰りにお参りに行く。
「これこれこういう住所の者ですが、うちの猫に会ったら連れてきてください」
とお願いをしてまわる。
つい先週まで、20年一緒に暮らすつもりでいたから二人ともびっくりしています。
まだあと15年残ってるので、すぐまた一緒に遊ぶ約束をして別れました。
早めに連れて帰ってきてやってください。
余っている毛皮で構わないので何色で戻っても構いませんが、虎とかヒョウとかではうちでは飼ってあげられません。
どうかまた猫でお願いします。
環境が変わると心労も多いだろうから、やはりしばらくは賑やかなのがよかろうと、帰りがけには花を買う。
家には猫がもう一匹いるから、中毒を起こすというユリ科を慎重に避け、猫の好きそうな小さくて鮮やかな花を選んだ。
ひさしぶりに晴れた7月の空の下を、小さな花束抱えておうちに帰る。
焼き場に行ったときは、びっくりするほどの急な雨だったけれど、やっと初夏らしく晴れたねえ。
最低49日間くらいはいろいろ裁判とかあって忙しいのだって。
こちらも色々調べて援護するから、しっかりこなしておいで。
終わったらまた、一緒におうちへ帰ろう。
久しぶりに『鬼灯の冷徹』を出してきて、実用書として読んでいる。
やはり、全体の道のりがわかっている方が具体的な応援もしやすく、たいそうためになる。
ありがたいことに、まず、悪いところではなさそうだ。