晴天の霹靂

びっくりしました

『欲望の時代の哲学2020』~哲学者もびっくりすると口が開く

NHKで毎週火曜に放送しているマルクス・ガブリエルのドキュメンタリーを毎回楽しみに見ています。

最新放送分である第四回の放送がまた、のけぞるほど面白かったですね。

 

www.nhk.or.jp

 

番組はニューヨークのタクシーの車内の映像からはじまりました。

渋滞中のトンネルの中、後部座席のガブリエルはいつものように陽気に饒舌にEUアメリカの文化ギャップについて猛烈にしゃべっています。

前の座席から撮影しているカメラ。

そこへ、突然割って入る運転手さんの仰天発言。

 

「すいません、不安発作が起きたので運転できない。みなさん降りて歩いて。」

場所はトンネル、しかも渋滞してて、ニューヨーク、歩けるわけがないです。

しかし運転手さんは不安発作。

 

あまりにも想定外かつ手詰まりなので見てるこっちももちろん唖然としますが、車中のNHKディレクターと哲学界の大スターもぴたっと動きが止まります。

どんなに頭がよくてもびっくりすると口が開く、という証拠を観測できました。

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稀代のお馬鹿さんに見える良いお顔。

声出して笑っちゃったよ。

 

この回は、かくも興味深いエピソードからはじまり、いつものごとく哲学論議へとつながっていくのでありますが、実はこのシリーズ、ちょっと論点が広すぎ、その割には細切れにしすぎてもいるので、楽しみに見ているわりには私はほとんど理解できていないのです。

毎回マルクス・ガブリエルの陽気さと明快さを見てなんとなく元気な気分になっているだけで、

「今回もやっぱりあんまりよくわからなかったな」

と思いながら番組は終盤に向かいました。

 

しかし最後に、番組はちゃんとあの未解決である車内の緊迫の風景に戻ったのです。

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やっぱり、いい顔。

また笑っちゃったよ。

 

さて助手席に日本人カメラマン、後部座席に哲学者とディレクター。

四人の運命はどうなったのか。

 

もともと良くしゃべるマルクス・ガブリエルはやっぱり運転手さんにしゃべりかけます。

「大丈夫、謝らないで。あなたはただ不安発作を起こしただけだ。」

「君ならできるよ。私たちはあなたを助けるために全力を尽くすよ。」

するとなんと、車はちゃんと動いてトンネルを出、視界の広いところに出ます。

「良くなった?あなたは勇気があるね、運んでくれてありがとう」

そしてガブリエル自身もつい最近高いビルの上で高所恐怖で気分が悪くなった話などをして

「あなたが感じたように、恐怖は傍目で見てもわからないんだよね」

なんて話を続け、どうやら運転手さんも危機的な緊張状態を抜け出すのです。

なんかわかんないけどすごいもの見た。

 

さて、番組のしめでガブリエルは振り返ります。

タクシーの中で、英語を話すドイツ人と日本人がアメリカについて話すのを日本語を話すカメラマンが撮影しているという異様な状況を運転手さんが受け止めきれなくなったこと。

しかしある時点でお互いがお互いを「異質」とみなすことをやめたことでトンネルから脱出できたこと。

ガブリエルは言います。

「倫理とは”異質”という錯覚を『私が彼だったかもしれない』という事実に転換することだ」

 

倫理とは、「私が彼だったかもしれない」ということ。

なにそれ、今日イチわかりやすい!

 

 

 

結局、陽気で明快で善良なので、この人好きだなと思っちゃうのですよねえ。 

なぜ世界は存在しないのか (講談社選書メチエ)

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