晴天の霹靂

びっくりしました

『デジタル・ミニマリスト』 ~春のハヤカワ祭りに参加した

早川書房が最大半額のセールをやっており、

「お、いつかは読もうと思っていたSFを買っておこう」とリストをチェックして『幼年期の終わり』などを買う傍ら、

「半額ならたまにはこんなものも読んじゃおっかなー」などとつい普通の値段なら買わなかったであろうものまで買ってしまったりするのである。

 

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デジタル・ミニマリスト: 本当に大切なことに集中する

デジタル・ミニマリスト: 本当に大切なことに集中する

 

 私はいつのころからかスマホからツイッターやインスタグラムなどのSNSを削除した。

その結果、本を読む時間も劇的に増えて大変快適に暮らしている。

 

現状とても快適に暮らしているので「まあ、読まなくてもだいたい私がやったようなことが書いてあるんだろう」とは思ったが、でも自分がなんとなく行ったことがもたらした結果がずいぶんと大きかったので、同じようなことについて書かれている本があるとすればそれにはちょっと興味も持ってしまう。

 

実際、なかなかに面白い本だった。

懐かしかったのは、最初に自分がiPhoneを使い始めたころのことを思い出したことだ。

最初に手にしたは当時、孫正義氏が独占販売していたソフトバンクiPhone3GSだった。

iPhoneが欲しいと思ったことはなかったが、ちょっとiPodが欲しくなっていたのだ。

そしてたまたま携帯電話の料金プランを見直したい時期でもあったのだ。

iPhoneにすれば電話とipod一台で済むんじゃない?」

そう思ってショップに出向いて料金体系を確認した。

案外安かったので契約した。

 

この経緯についてあまり深く考えたことはなかったが、まさにiPhoneはそういうことのために開発されたデバイスだったのだ。

ipodと電話を二台持ち歩かなくてすむデバイス、電話を掛けられるipod

当初スティーブ・ジョブズが画期的な技術革新として世界に向かって興奮気味にプレゼンしたのは、今思えばそんなにつつましいことだったのだ。

世界じゅうの人の注意力を24時間ハッキングし続ける小型コンピューターを作ろう、と誰かがもくろんで「スマホ」というものがこの世に普及したわけではなかったのだ。

最初の段階では誰もこんなことを考えていなかったのに、いわば世界は自分からこんなに時間つぶしのおしゃべりで溢れていったのだ。びっくりだ。

 

ツイッターも、出回りの頃はとても面白かった。

ラジオのサイマール放送もまだ始まっておらず、テレビも持っていなかった私にとっては貴重な情報源でもあった。

今起こってることに対してリアルタイムであれほど多様なものの見方を一度に観測できたのは初めてのことで、今まで考えたことないほど多くの視野を開いてくれるものだと思っていた。

それがだんだんと、玉石混交の中で、「石」の量が圧倒的に増えていき、石から玉をより分けるコストがメリットに見合わなくなってきた。

多くの報道やラジオ番組がネット配信されるようになり、お金を払って質の良い情報を手に入れることの方が、玉石混交の中から自分の非力な知識量で情報を選別するよりメリットが大きくなった。

 

そしてそれに気づいてもなんとなくスマホを手に取るとツイッターやインスタグラムをチェックする自分を意識して、だいたい同時期にどちらも削除した。

また本を読む量が増えたし、つまりは集中力が散らなくなったのだと思う。

情報にお金を払えるというのは本当にありがたいことだ。

 

この本でもうひとつ懐かしかったのはソローの『ウォールデン 森の生活』をやたら引用する点だ。

生活を可能な限りシンプルにすることで主体的で希望に満ちた人生を送ることが可能なはずだと考えたソローが森へ小屋を作ってひとりで暮らした2年間の記録である。

この本が、私もずいぶん好きで、『ウォールデン』を片手に旅をして夜な夜な読んだものだった(当時はまだスマホがなかった)。

その後、あまりにも理想主義っぽくて気恥ずかしいと思っていた時期がしばらくあるが、今こうして別の本の中であっても再会すると、やっぱり喜びにあふれた本なのは確かで、「ああ、久しぶりにまた読み直そう」と思ったのは素晴らしい収穫だ。

 

ウォールデン 森の生活

ウォールデン 森の生活

 

 でっかい本なのだけど、本当に日本中持ち歩いてボロボロだった。青春の書であるな。