晴天の霹靂

びっくりしました

ジェリクルキャットは誇り高い

ずいぶん雪の少ないシーズンだったものを、立春すぎにいきなりどかっと降ったと思ったら、今度はあっと言う間に溶けはじめ、靴底で踏んだときの雪解けの感触に唐突さばかり感じる2月。

 

気温が緩み始めた日の真夜中には建物の屋根から大きな雪と氷の塊がズルズルっと滑って地面にどしんと落下する音と振動が響く。

冬の夜はいつも私の脚の上に几帳面に縦列駐車で寝ている猫が二匹、暗闇の中でポーン、ポーンと驚いて飛び上がる気配が感じられ、可笑しいことこの上ない。

「雪が落ちる音は去年も聞いたでしょ」

あいまいに猫たち慰め、また夢うつつの世界に戻る。得体の知れない大きな音がしても私が慌てないので、どうやら身の安心を信じたらしい猫もまた縦列駐車の形で夢の世界に戻る。基本的に呑気な生き物だ。

 

「おはよう、ジェリクル、ジェリクル、ジェーリクルキャッツ、ご飯食べるかいっ?」

飼い主のほうは昨日みてきたばかりの悪夢のような映画版『キャッツ』にどっぷりハマり、朝になってもバットトリップから出てこない。

「人間と猫とゴキブリとねずみが全部人間で、猫人間がゴキブリ人間食べたりする地獄絵図ミュージカルが超斬新なのわかる?」

自分でもいまいちうまく整理のついてない観劇後のハイテンションについて説明したくても、猫が悪夢をもてあそぶ悪趣味を共有してくれるとは思えない。

 

それにつけても、人間が猫に寄せようとすればするほど、結局体つきと仕草は猫のほうがずっと美しいのだということを意識させられてしまうのは驚くほどだ。

寝ぼけまなこでガツガツ餌を食べてるうちの猫を見るだけでも、あれほど美しくてかわいい白猫ヴィクトリアも優美さでは遠く及ばないではないか。

 

ジェリクルキャッツの仲間入りするには、度胸もなく、自立心もなく、危機意識にも欠けている我が駄猫だけど、しかしその完璧なデザインを見ていると君たちにも九生あることをちょっとばかし信じる気になってしまうものだね。

ジェリクル、ジェリクル、ジェーリクルキャッツ。

ところで、ジェリクルキャッツって結局何なのかね。お前たち、知ってるの?

 

 


『キャッツ』日本語吹替え版「ジェリクルソングズ・フォー・ジェリクルキャッツ」本編映像

結局、「猫」を演じたいのか「猫人間」を演じたいのか決めきれなかったところが悪夢的に面白くなっちゃった原因だったのじゃないのか。